チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2013年3月30日
ウーセル・ブログ:焼身したチベット人の遺族は言う――「これでは、あと何人失うのか?」
ウーセルさんの3月27日付けブログ前半を、うらるんたさんが解説付きで訳して下さったので以下それを女史のブログ(http://lung-ta.cocolog-nifty.com/lungta/2013/03/20130325.html)から転載させて頂く。
[訳]ウーセル・ブログ:焼身したチベット人の遺族は言う――「これでは、あと何人失うのか?」
このコラムに関する次のやりとりも合わせてどうぞ
きょう(3月25日)また焼身が起きた!
http://lungtaprojectjapan.tumblr.com/post/46428373754/tsepa-voa
焼身したチベット人の遺族は言う――「これでは、あと何人失うのか?」
看不見的西藏:自焚藏人的家人说:就这样,还会有多少人离去?(2013年3月27日)
原文:http://woeser.middle-way.net/2013/03/blog-post_671.html(ウーセルさんの前書き)
RFA(ラジオ・フリー・アジア)チベット語放送局の記者パルデン・ギェルは一昨日(3月25日)彼自身のブログに短いコラムを寄せた。VOA(ボイス・オブ・アメリカ)チベット語部の記者ツェリン・キが中国語に翻訳し、ウーセルが校正した。パルデン・ギェルは焼身者の家族だ。2012年11月15日、彼の姪である23歳のティンジン・ドルマは、村のなかのマニ堂で焼身の犠牲となった。ティンジン・ドルマはアムドのレゴン(レプコン)、現在の青海省黄南州同仁県扎毛乡果盖里仓村(ツェンモ郷ゴゲ村)の人で、父親の名はプロ、母親はタシ・ドルマ。
ツェリン・キもまた焼身者の家族であり、今年(2013年)1月12日、彼女の甥である22歳のツェリン・タシが放牧を終えて町まで行き自らを炎とした。ツェリン・タシはアムドのラブラン、現在の甘粛省甘南州夏河県の、アムチョクの牧畜民で、父親の名はドゥッカル・キャプ、母の名はツェリン・ドルマ、妻の名はユムツォ・キ。
だとしたら、あと何人失うのか?
文:パルデン・ギェルチベットのアムドで、昨日、2013年3月24日、1人、今日、2013年3月25日、また1人、焼身した。彼らは「チベットに自由を」と叫び、「ダライ・ラマ法王のご帰還を」と叫んだ。しかして中国共産党の焼身者の要求に対する回答はあっただろうか?
チベット亡命政府は中国政府にただ「チベットで実施している高圧的な政策を変えれば、チベット人の焼身は止まる」とだけ表明している。しかし中国政府はチベット政策を路線変更するどころか、更に厳しさを強め、却って強硬的な方法に転じさえしている。
では、チベット人はもっと焼身を続けるべきなのだろうか?写真の最前列左から2番目が、パルデン・ギェルの姪で焼身したティンジン・ドルマ。後列中央がパルデン・ギェル。
先日、私は子どもを焼身で亡くした母親に会った。その母親は私を抱きしめて泣いた。数分間泣き続けて、ようやく思い出して「おかえりなさい」とあいさつした。私は彼女を抱きしめ返し、両手で彼女の顔を包み、「泣かないで」としか声にできなかった。それ以上何も話すことはなかった。何も口から出て来なかったからだ。涙も流れなかった。涙があふれ出る彼女の眼の奥に、苦しみ、傷つき、恐れ、疑いが混沌となって見てとれた。
どうしたらいいのか? それは恐ろしくさえあるような感覚だった。焼身の火炎はまだ猛烈に燃え続けるのだろうか? だとしたら、あとどれだけの人を失うのだろうか?火炎の中でダライ・ラマ法王の御名を高らかに叫ぶ!
くずおれながら民族の自由を呼び覚ます!
これほどあまたの生命とたましいが、火炎のようにたちのぼり、天空から雪の国を見下ろしている……2013年2月25日
(付記)
中国語翻訳からの二重訳ですご了承ください。
チベット人記者がチベット語で書いたコラム、という点にも興味があって訳しました。
一般に、チベット語でものを書くときには伝統的なセオリーがあり、直接的に表現せず、婉曲表現を使い、回りくどく描写するのが美しい、とされていると聞きます。(中国語も多少その傾向はあり、格調高い文章ほど美辞麗句や故事成語や慣用表現を駆使するように思います)
なるほどなあ、と考えながらコラムを読みました。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)