チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2013年3月20日
相次ぐ中国版焼身ストーリー
焼身を唆し、国家分裂を企てたとして3人に4~6年の刑
チベット系メディアが新華社電を引用し伝えるところによれば、3月18日、青海省海東地区人民中級法院は3人のチベット人に対し、焼身を教唆・煽動し、国家の分裂を企てたとして4年から6年の刑を言い渡した。
3人の氏名と刑期は:
ケルサン・ドゥンドゥップ(སྐལ་བཟང་དོན་འགྲུབ་)に6年の懲役刑、政治的権利剥奪4年、
ジグメ・タプケ(འཇིགས་མེད་ཐབས་མཁས་)に5年の懲役刑、政治的権利剥奪3年、
ロプサン(བློ་བཟང་)に4年の懲役刑、政治的権利剥奪2年。
チベット系メディアにはこれしか書かれておらず、元記事が確認できないので、彼らが誰の焼身に関わったとされたのかは明らかではない。これまでに海東地区におけるチベット人の焼身抗議は2件のみである。昨年11月19日にヤズィ・ゾン(ཡ་རྫི་རྫོང་循化撒拉族自治县)カンツァ・チベット族郷(་རྐང་ཚ་ཞང་岗察藏族乡)のカンツァ僧院傍で焼身したワンチェン・ノルブ(དབང་ཆེན་ནོར་བུ་)(詳しくは:http://blog.livedoor.jp/rftibet/archives/51770050.html)と今年2月24日にバイェン県(青海省海東地区化隆回族自治県)にあるチャキュン(ジャキュン、བྱ་ཁྱུང་དགོན་པ་、夏琼寺)僧院内で焼身したパクモ・ドゥンドゥップ(ཕག་མོ་དོན་གྲུབ་、ラモ・ドゥンドゥップと伝えるメディアもある)(詳しくは:http://blog.livedoor.jp/rftibet/archives/51781897.html)である。
パクモ・ドゥンドゥップは病院に運ばれる途中家族と共に当局に拉致されたという報告の後、消息が途絶えたままである。生死も確認されていない。状況や時期を考えれば、今回の判決は前者のワンチェン・ノルブの焼身と関係があると思われる。彼の葬儀は大々的に行われ、ダライ・ラマ法王を讃える詩句も大声で唱えられたと言われ、これに対し部隊も派遣されている。
今回刑を受けた3人がパクモ・ドゥンドゥップとどういう関係であったのか、どのような状況で逮捕されたのかについては未だ不明である。
参照:19日付けTibet Times チベット語版http://www.tibettimes.net/news.php?showfooter=1&id=7477
20日付けVOT中国語版http://vot.org/cn/?p=23934
追加:人民网元記事 http://qh.people.com.cn/n/2013/0318/c182761-18315231.html
リンチェンとソナム・ダルギェの焼身を唆したとして在インドの僧侶が国際手配?
同じく新華社電の記事によれば(こちらは全文ではないが日本語にもなっている>http://japanese.cri.cn/881/2013/03/19/241s206066.htm)、四川省警察が今年2月19日にンガバ州ゾゲ県で焼身、死亡したリンチェン(17)とソナム・ダルギェ(18)の焼身を強要した犯人を特定することに成功したという。その犯人とはリンチェンの義理の叔父であり、ダライ集団「独立組織」の「情報連絡グループ」のメンバーであるとされている。また、長期間に渡りこの少年(リンチェン)と連絡をとり「チベット独立」の考えを吹き込み、「焼身者は民族の英雄である」として焼身自殺を強要したと書かれている。そして、「中国警察は関係国に対し、容疑者の調査協力を求めた」そうだ。(この新華社の記事をそのまま伝えたサーチナの記事もある>http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2013&d=0319&f=politics_0319_004.shtml)
日本語バージョンには書かれていないが、元記事にはこのとき焼身を行おうとしていたのは3人で、1人は思いとどまったとされているようだ。
中国がリンチェンの叔父として名前を上げた「旦巴降措」は現在ダラムサラ・キルティ僧院にいる僧侶テンパ・ギャンツォ(またの名はクンチョク・タムディン)であると特定された。これに対し、ダラムサラ・キルティ僧院の内地連絡係りである僧ロプサン・イシェはVOTのインタビューに対し、「我々は中国側の話を完全に否定する。連絡係りは私とカニャク・ツェリンの他にはいない。外部の記者を完全に遮断している状態で、中国側が何を言おうとそれをどうやって信じろというのか?中国が今行っている焼身者を唆したという嘘によってチベット人を裁くというやり方では焼身は決して終わらないであろう。そうではなく、真実に基づいて、政策を変更するというやり方に変えない限り終わりはないと言いたい」と話す。
女性は焼身したのではなく「夫に殺された後、焼かれたのだ」!?
RFA中国語版が中国政府系報道http://www.rfa.org/mandarin/Xinwen/Zanhanshaqi-03192013004024.htmlを引用して伝えるところによれば、四川省ンガバの公安局は「妻を焼身に見せかけて、実は妻を殺した後、ガソリンをかけて燃やしていたという夫を逮捕した」という事実を突き止めたそうだ。
中国の公安は、この事件が発生したのは11日の夜と発表しているようだが、どうみてもこれは亡命側に「2月13日の夜中、クンチョク・ワンモ(30)が焼身抗議を行った」として伝えられている事件のことと思われる。(詳しくは:http://blog.livedoor.jp/rftibet/archives/51783990.html)
こちら側には「焼身があった後、直ぐに部隊が来て彼女は運び去られ、翌日には夫に遺灰だというものだ渡された。そして、当局は夫に対し『焼身は夫婦喧嘩が原因と言え』と脅迫したが、夫はこれを拒否したところ連行された」と言うことになっている。
これまでの焼身に関する当局の作り話については、すぐにそれはないだろう、状況からしてもおかしいと客観的判断ができるものばかりだったが、今回の場合は「ひでえことを考えるものだわい」と思いながらも、このままでは客観的判断を下すことが難しいのではないかということで、早速この情報を現地から受けたとされるRFAの友人に電話して、突っ込みを入れてみた。
質問:目撃者はいるのか?
彼:夜中だったし、いなかった可能性が高い。とにかく今全く現地と連絡できず、確かめようがないのだ。
質問:夫が警察に「原因は夫婦喧嘩だったと言え」と言われ、それを拒否したところ連行されたとなっているが、これはどうやって分かったのか?現場に誰かいたのか?
彼:誰からの情報ということはできないが、現地からの報告だ。夫の兄弟かだれかがその場にいて、その話が伝わったと思われる。警官が彼女を連れ去った時には廻りに人がいたようだ。「まだ死んでいなかった」と言っていた。情報を伝えたチベット人はこれを伝えるためにわざわざその地域を離れ、別の場所から連絡してきたのだ。嘘とは思えない。中国はこれまでにも色んな作り話をでっち上げて来たが、今度のは酷いと思う。
質問:目撃者の話が入ればベストだよね。これから追加情報が入る可能性はあるだろうか?
彼:そりゃ、あるだろうが、とにかく時間がかかりそうだ。今はまったく電話が通じない。
私:まあ、本当に夫が殺したのなら、当局が急いで遺体(?)を火葬にして遺灰だけを夫に渡すというのは、あり得ないことだよな。証拠隠滅したのは当局ということになるな。
彼:嘘に決まってるだろ!
ということであった。
中国も最近は色んなバリエーションをもってストーリーを考え出しているようである。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)