チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2013年3月16日

ウーセル・ブログ「この賞を焼身した同胞にささげたい!」

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ウーセルさんは3月12日のブログに、3月4日に発表され、3月8日にアメリカの国務省内で受賞式が行われた「国際勇気ある女性賞」を受賞したことに答える「この賞を焼身した同胞にささげたい!」という文章を載せられている。もちろん彼女は自宅軟禁の身となり、アメリカに渡りこの授賞式に参加することはできなかった。

この中で彼女は「著述とは巡り歩くこと。著述とは祈ること。著述とは証人に立つこと」であると述べ、これまでの彼女の文筆家としての軌跡を美しく感動的な文章で要約されている。最後に米国務省に対し、「私たちは果てしない闇夜にあっても、差し伸べられた手から伝わるぬくもりを感じ取ることができます」と感謝を述べ、「まさにこの瞬間、最も伝えたい言葉がある。『私はこの賞を焼身したチベットの同胞にささげたいのです!』」と結ばれている。

民族の苦しみを引き受ける文章は研ぎすまされ、困難が人を強く美しくするとはまさに彼女のような人のために言われるべき言葉であろう。

原文:http://woeser.middle-way.net/2013/03/blog-post_12.html
翻訳:@yuntaitaiさん

唯色:“我要把这个奖,献给自焚的族人们!”

398852_10200214745504171_1875340639_n3月10日に香港で開かれた「チベット抵抗記念日54周年活動」。100本以上のろうそくがバター灯明のようにチベット人焼身者にささげられた。

◎「この賞を焼身した同胞にささげたい!」

重苦しい記念日が並んでいるため、3月はチベットにとって1年で最も敏感な月になっている。例えば、5日は1989年のラサ抗議が鎮圧された記念日だ。10日は1959年の「チベット蜂起記念日」。14日は2008年のチベット抗議の記念日。16日は2008年にアムド地方のンガバ(四川省阿壩=アバ=県)で、抗議の民衆が銃殺された記念日だ。

このほか3月には、中国政界にとって極めて重要な「両会」(全国人民代表大会と全国政治協商会議)が北京で開かれる。両会の開催期間になると、党に不安定要因だとみなされているもの全てが厳しく警戒される。例えば、反体制派は多くの場合、軟禁されるか失踪させられる。その中には私と私の夫(作家の王力雄)も含まれている。

だから、この時期に米国務省の世界的な「国際勇気ある女性賞」を受賞し、私の胸にはさまざまな思いが込み上げてきた。

私は一人のチベット人だ。ラサで生まれ、中国共産党政権に激変させられたチベットで育ち、小さいころからイデオロギー色の強い教育を中国語で受けてきた。小学校でも中学校でも、チベット語を教える授業は1科目もなかった。大学には30以上の「少数民族」がいたが、私は漢語文学部で学んでいた。

私は作家になり、堅持しなければならない著述の理念が次第に分かってきた。著述とは巡り歩くこと。著述とは祈ること。著述とは証人に立つこと。私はこの三つが互いに因と果の関係にあると思っている。証人に立つとは、つまり声を発することだ。

チベットの僧侶は経典に書かれた道理を問答で探し求める時、手のひらを力いっぱい打ち鳴らす。その響きは、どんな試練にも負けない偉大な仏法を象徴している。一方、私は心の声の響きを通じ、私を育てた土地への嘘偽りのない気持ちを注ぎ、民族の精神をうたう。ただ、差し当たって多いのは、民族の苦難について圧迫者に抗議し、強権の生み出す忘却を歴史の記憶で克服する著述だ。

私はまず詩を書いた。詩歌で私の本当のルーツを探し求めた。それは心の追憶の旅で、信仰とも関わりがあった。続いて散文と小説でチベット人の暮らしを描き、現実の中で避けようのない多くの問題に触れ、チベットの誇りと苦難が少しずつ見えてきた。それ以降はノンフィクションを書き始め、真摯に愛するチベット高原の人や物事を歴史と現実という観点から記録した。このうち、チベットでの文化大革命の写真や調査、関係者の証言などをまとめた2冊の著作(「殺劫」と「西蔵記憶」)は、「文革研究のチベットの部分はもう空白ではなくなった」と評価された。

大きな変化は2008年3月に起きた。当時、チベット全土に及んだ抗議は血なまぐさい鎮圧に遭っていた。中国政府はあらゆる情報を独占し、世界の人々が大音量のねじ曲げられた声を聞くしかないように仕向けた。著述を「証人に立つこと」とみなす私は、この時から自分の著作やブログ、ラジオ局(RFAウェブサイト)のコラム、ツイッター、フェイスブック、メディアへのコメントなど、多くの発信によって「1人メディア」になった。数年間続けてきた経験から、「1人メディア」は権力を持たない者の武器なのだとますます感じるようになった。この武器は言葉でできている。その言葉はチベットの宗教と伝統、文化、そして傷つけられているチベットの現状、炎に身を包んだ100人以上の同胞の願いから生まれる。これらの全てが圧迫に抵抗する力になり、私があきらめず、妥協しない理由にもなっている。

「国際勇気ある女性賞」を私に与えた米国務省に伝えたい。「今日のチベットでは既に、声を上げた無数の人たちが強権の底知れぬ暗闇に消えました。私もその暗闇の到来に備えています。このような時に声を上げるのはもちろん勇気が必要ですが、耳を傾ける人たちがその声を聞き、関心を寄せる人たちが注目し、支援者が力を貸してくれることをより望んでいます。世界の良識ある人たちが手をつなぎ、力を合わせてあらゆる不正を正し、一人ひとりの苦しみを取り除き、全ての命に平等と自由、尊厳の権利を持たせてくれるよう望みます。これはとても重要です。私たちは果てしない闇夜にあっても、差し伸べられた手から伝わるぬくもりを感じ取ることができます。『国際勇気ある女性賞』をいただき、心から感謝します。これは燃え上がっているチベット高原への気遣いなのだと解釈したいと思います」

まさにこの瞬間、最も伝えたい言葉がある。「私はこの賞を焼身したチベットの同胞にささげたいのです!」

2013年3月6日 (RFA特約評論)

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

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