チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2013年2月26日

法王ジャータカ・ティーチング

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DSC_0818昨日はチベット歴正月15日、モンラム・チェンモ(大祈祷会)最後の日ということで、恒例のダライ・ラマ法王によるジャータカ(仏陀前世譚・本生譚)ティーチングが行われた。嘗てはこの日から法王は2週間あまり続く本格的なティーチングをされていたが、最近は午前中だけの簡単なティーチングをされるだけとなっている。

会場となったダラムサラ・ツクラカンは満杯で、6千人余りの僧俗チベット人、日本人数十名を含む外人が詰めかけ、法王の教えに耳傾けた。

今回も法王の写真を多めに載せる。気に入った写真はクリック拡大されることをお勧めする。

DSC_0874朝8時過ぎにツクラカン前庭の玉座に座られた法王は、テキストに入られる前に、いつものようにまず仏教一般に関する話をされた。

まず、このような特別に吉祥な日には釈迦牟尼仏陀の教えを思い出すべきだと言われ、「みんな仏教に対する『信』は持っている。そのような者として、仏陀の教えを知り、それを守ろうと心がけることが大事だ。日々、己の心に注意することが大事だ。仏教の心髄は正しい行いをすることだ。正しい行いの元は善なる心だ。我々仏教徒は単に仏教を守ろうと思うだけでなく、仏陀が説かれた教えを守ろうと思うことが肝要なのだ。」と説かれた。

_DSC8712チベット語の仏陀はサンゲと言うが、この語意を分かり易く説明された。この地球には70億人の人間がいて、みんな問題は起こしたくないと思いつつも沢山の問題が発生している。これらのほとんどは人間自身が作り出したものであり、それも『不知(知らないこと、気付かないこと)』が原因であることが多いので、日々己の心に気を付け、間違った心からサン(自由になる)する智慧を得ることが大事と説かれた。

_DSC8926「悟りなどと遠い話をする必要はない。自分たちの今の心に気を付け、悪しき心を避けるべきだ。例えば、ボーとしてる人を見て、こいつは騙せるなと思って騙すのではなく、今日はあいつを騙してやったぜと喜ぶのではなく、正しい心と共に正直に接っするならば、日々苦しみからサンすることができる。『サン』とはこのことだ。人を騙せば自分に不利なことが起る。人に嫌われる。自分の幸不幸は他の人に依っているのだから、人に嫌われれば自分に害が及ぶ。人に辛く当たれば不善をなすとかいう話じゃない、人に辛く当たれば自分に害が及ぶという話だ。人を助ければ、自分にも良いことがあると考えて行動すべきだということだ。」

_DSC8764また、仏陀が2600年前に説いた教えは、今の21世紀にも人々に福利を与える力があると確信し、仏陀の教えを学ぶことが大事と言われ、「仏教の教義は心の科学として、この21世紀においても必ず人々を利する力がある。このためには自分たちがこれに興味を持ち、勉強すべきなのだ。どちらかというとチベット人の方が仏教に興味を持つ者が少なくて、外国の人、特に科学者の中にこれに興味を持つ人が多いという傾向があるように思える。自分たちは今更外国語を学ぶ必要もなく、仏典はチベット語で書かれている。カンギュル(教典集)、テンギュル(論書集)が揃っている。これに対するチベット人学者たちの解説は溢れるほど存在している。これらは我々の宝だ。高僧の伝記とかは別だが、(哲学的)見解について解説されている論書は貴重な宝だ。だから、普通の人々もこれらを勉強することが大事なのだ。私が言いたいことはこのことだ。教典を見るのは僧侶がやることだと思わす、僧俗、男女を問わず教典を勉強することが大事だと私は繰り返し強調している。ただ、仏壇に飾って置くだけでは何にもならない。」と繰りかえされた。

_DSC8754各地のチベット人同士を結びつけ、そのアイデンティティーの核となるものは仏教とそれに基ずく文化であると言われ、「チベット人の命の基は仏教教義だと言える。歴史的にはチソンデツェン王の時代にチベットはもっとも強大だったと思われる。その後政治的には様々なことが起ったが、その後もチベット全土、ウツァン、カム、アムドが一体感を保持し続けることができたのは政治的な要因ではなく仏教と文化の要因に依るものだったと思われる。過去もそうだったし、現在においてもチベットの命は知識や精神的なものの中にあるのだ。だから、すでに存在するものを大切にすることは非常に大事なことなのだ。」と力を込めて説かれた。

_DSC8788その後、ジャータカのテキストに入られた。今回はその(チベット版テキストの)第29章「ブラフマーアルカから来た人」が講じられた。と言っても内容は特に解説する程のことではないと思われたのか、ほぼ読飛ばされた。ジャータカには色んなバージョンがあるので、私の持っている中村元さんのジャータカ本にはこの話は入っていない。

お話のあらすじは「ブラフマーアルカという欲望に満ちた俗界にアルカディーラという邪見に惑わされた王がいた。来世を信じず好き放題し、国民も苦しんでいた。ある時王が木影で休んでいると、菩薩の姿をした釈尊と出会う。菩薩の美しい姿に王が話しかける。菩薩は来世を信じない王に、目に見えないものも存在することを示し間違った考えを諭す。王は邪見が取り払われ菩薩に帰依し、富を徳を積むよう使い国が富むよう誓うという物語だ。この物語からも先ほどのお話しと同様に邪見を無くし智慧を育むという事が語られている。」<以上ティーチングに参加されてた田中 嘉則の要約。

_DSC8945ジャータカは前2、3世紀ころから成立し始めた仏教説話であり、仏陀の死後、仏陀が祭り上げられるに従い、このような偉大な仏陀の境地はただの一生だけで成し遂げられたはずはないと、その無数の前世を想定し、これを仏陀の菩薩時代とし、古代インドで伝承されていた説話等を元にして作られたのである。

ところで、その中に「菩薩太子、身を捨てて飢えた虎を救う(捨身飼虎)」という一章がある。これは、7匹の子を生んだばかりの雌虎が飢え、このままでは自分の子供を食べれしまいそうだと思った(仏陀の前世である菩薩)王子が、自らの身をこの雌虎に捧げることにより母子の虎を救ったというお話である。この話はチベットにおいても特に有名であり、去年1月8日にゴロで焼身、死亡したソパ・リンポチェ等は、その遺言の中で自らの焼身をこの仏陀の前世である王子の行為になぞっている。

_DSC8921その部分を以下に記す:「この行為は自分1人のためになすのではなく、名誉のためになすのでもない、清浄なる思いにより、今生最大の勇気を持って、(ブッダのように、子トラたちを救うために飢えた)雌トラに身を捧げるようになすのだ。私のようにチベットの勇者・勇女たちもこのような思いで命を投げ出したに違いない。しかし彼らは実行の際、怒りの感情と共に死んだ者もいるかもしれない。そうであれば彼らが解放の道を辿れるかどうかは怪しい。故に、様々な悟りへの道を思い出させてくれる船頭のような導師と、このような供養を捧げる善行の力に依って、将来、彼らを含めた全ての有情が全智至上の仏の位に到ることを祈願しながら行うのだ。また、内外のラマ、トゥルク全ての長寿と就中ダライ・ラマ法王をポタラの玉座にお迎えして、チベットの政教を司ることができますようにと祈願する。」(遺言の全文は>http://blog.livedoor.jp/rftibet/archives/51729748.html

このティーチングが行われた日にもチベット本土では2人が焼身抗議を行った。

_DSC8880ティーチングの最中、みんなが集まったテントの上や中で沢山の猿が追いかけっこをしているのを見られた法王は「今日は天気が良くて、猿も元気なようだわい。ただ1つ、下におしっこをするのだけはやめてほしいがな、ははは、、、」と。

_DSC8862テントの上を走る、その猿たち。

DSC_0884

_DSC8871モンゴル人と思われる。

_DSC8874

DSC_0870

DSC_0855アマ・アデさん。

DSC_0844

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

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