チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2013年1月11日

僧侶作家連行 衛星アンテナ押収 チベット語クラス閉鎖

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jig_meiレゴンで僧侶作家連行

今月1日(3日との情報もあり)、アムド、レゴン(青海省黄南チベット族自治州同仁県)当局はガルツェ僧院に押し掛け、僧侶作家であるガルツェ・ジグメ(འགར་རྩེ་འཇིགས་མེད་36/37)を拘束、僧坊を捜索しパソコン等を押収した。彼は現在西寧のどこかで取り調べを受けているという。

彼は最近雑誌「王の勇気༼བཙན་པོའི་སྙིང་སྟོབས༽」の第二部を出版したばかりであった。拘束の理由はこの雑誌の中で彼が書いた内容が政治的と判断されたからではないかと思われている。この中で彼は焼身、抗議デモ、ダライ・ラマ法王、チベット亡命政府、チベット人の権利、環境、少数民族と北京の関係等、チベットの現状についての報告を行っている。チベットの本当の姿を報告したが故に拘束されたのだと現地のチベット人は言う。

ガルツェ・ジグメはレゴン県ガルツェ郷の遊牧民地帯に生まれ、中学を終えた後1992年にガルツェ僧院に入った。これまでにゲルク派の教学過程を全て終了している。勉強の傍ら、彼は地区の新聞や雑誌に多くの記事を書き、共著で数冊の本を出版している。また、これまでに2度、地区の作家、知識人を集めたセミナーを主催している。

2008年には友人たちと共に雑誌「王の勇気」第一部を出版した。この中には08年蜂起の報告が多く含まれていた。そして、当局はガルツェ・ジグメを始め、この中に記事を書いたチベット人を拘束し、拷問を与えたという。

2008年以降、チベット人作家、歌手、文化人、知識人、地域に影響力のあるラマ等の拘束・逮捕が続いている。彼らはチベット語でチベットの現状を知らせ、チベット人としてのアイデンティティーを守ることを訴えることが多い。当局は情報封鎖、チベット文化、民族弱体化を目的に彼らを取り締まっているのである。

参照:9日付けRFAチベット語版http://www.rfa.org/tibetan/sargyur/Gartsey-jigmey-rabkung-amdo-01092013120045.html
10日付けTibet Timesチベット語版http://www.tibettimes.net/news.php?showfooter=1&id=7176
10日付けTibet Expressチベット語版http://www.tibetexpress.net/bo/home/2010-02-04-05-37-19/9964-2013-01-10-05-06-35
10日付けVOT中国語版http://www.vot.org/?p=20760
10日付けTibet Post 英語版http://www.thetibetpost.com/en/news/tibet/3162-china-arrests-prominent-tibetan-writer-in-north-eastern-tibet

image衛星アンテナ強制撤去 海外情報遮断

アムド、マロ(青海省黄南チベット族自治州)当局は域内で海外からの放送を受信できる衛星アンテナの撤去キェンペーンを開始した。これは去年11月終わりにレゴンを中心に連続するチベット人の焼身抗議への対応の一環として、青海省の党書記である強衛が「黄南州から全ての衛星アンテナを押収せよ」と命令したことによるという。

先月にはすでに地区の300の僧院から衛星アンテナとテレビが取り上げられたと報告されている。今回すでにレゴンを中心に何百台もの衛星アンテナが撤去され、焼却された。

tibet-satellite-dishes-burning-305「彼らはRFAやVOAを聞けなくするためにこんなことをやっているのだ」と現地のチベット人は話し、されに「これで、我々は盲目になった。とても悲しい」という。すでに地域のインターネットと携帯は厳しく規制されている。

「もしも、衛星アンテナを引き渡さなかったならば5千元の罰金が科される。そして、もしも他の誰かがアンテナを付けていることを密告すれば1万元の報酬がもらえる。アンテナを販売する業者を密告したものにも1万元の報酬がもらえる」という。(これで行けば、おとなしく引き渡して、その上、他の人や業者を密告すれば、金が入ることになるんじゃないか?)

image3当局は衛星アンテナの代わりに政府系の放送しか受信できない小型のアンテナを買うよう勧めている。もっとも、このアンテナとモデムについては、チベット人の間で「隠しカメラと録音機が内蔵されている」と噂されており、これを取り付けるチベット人は少ないという。

参照:9日付けRFA英語版http://www.rfa.org/english/news/tibet/satellite-dishes-01092013180134.html

一般に中国全土で外国の放送を受信できる衛星アンテナは禁止されている。しかし、チベット以外ではこれは野放し状態である。

チベット語クラス閉鎖

アムドやカムのチベット人居住地区では、長い冬休みを利用して、チベットの子供たちを対象にチベット語とチベット文化を教えるプライベートな学校が開かれることが多い。これは当局の政策により学校でチベット語が十分教えられず、しきたりも中国式であるので、ほっておくと子供たちが中国語ばかりを話し、仕草も中国化されることを避けるために、親たちが僧侶やボランティアの教師に頼み、クラスを開くことが多いからだ。

そのようなクラスがまた、当局により強制的に閉鎖されたというというニュースが入っている。RFAによれば、ンガバ州ズンチュ県ムゲノルワ(དམུ་དགེ་ནོར་བ་)郷で去年から始まり、地域の子供100人ほどが学んでいた私塾が閉鎖命令を受けたという。地域のチベット人たちはこれに甚く落胆し、「チベット人にはチベット語を学ぶ権利もないのか」と怒りを露にする人もいるという。

この他、カンゼ県のペリ僧院が行っていた同様のクラスとデルゲ県の僧院が行っていたクラスも閉鎖命令を受けたという。

同様の報告は以前にも何度か伝えられている。露骨な言語、文化弾圧である。

参照:10日付けRFA英語版http://www.rfa.org/english/news/tibet/classes-01102013145912.html
同チベット語版http://www.rfa.org/tibetan/sargyur/Tibetan-class-in-amdo-01102013085454.html

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

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