チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2013年1月9日
ネパールでチベタンアンテロープ7千頭分の毛押収 時価35億円相当
ネパール政府の発表によれば、今月6日、カトマンドゥの西方約140キロにあるゴルカ地区Thumi VDCで46個の包みに隠されていた1150キロのチベタンアンテロープの毛が押収されたという。シャトゥーシュと呼ばれる高級ショールの原毛であるこの毛の売買は禁止されている。今回摘発された1150キロの毛は闇市場で35億円相当という。これを保持していた2人のネパール人が逮捕された。
チベタンアンテロープは別名チルー、チベットカモシカと呼ばれることもある。学名はPantholops hodgsonii、チベット名はགཙོད་(ツゥー)。嘗てはチベット全域、ネパール北部、インド・カシミール北東部の標高3700m~5500m地帯に生息していたが、個体数はこの20年間に半減し、現在ではチベット北部のチャンタン高原に推定75000頭が生息するのみと言われる。WWF(世界自然保護基金)により絶滅危機種に指定され、ワシントン条約により1979年以降、商業目的の国際売買が禁止されている。
しかし、現在もチベット内では密猟が行われ、毛がネパールを通じインドのカシミールに送られ、そこでショールに織られたものが世界にばらまかれている。このシャトゥーシュと呼ばれるショールは国際ファッション市場においては一品200万円近くの値段がつけられる。
この毛は刈り取ることができないと言われ、毛を得るためには動物を殺すしかない。一頭のチベタンアンテロープから得られる毛は150グラムと言われ、1つのショールを作るのに3~4頭が必要とされる。今回押収された毛はこの動物7000頭分という。なんとこれは生息数の約10%である。
WWFによれば、中国当局がチベット人遊牧民の牧草地をフェンスで囲い込み始めたことと、青蔵鉄道がチベタンアンテロープの移動の妨げになり、移動場所が限られたことで密猟者のアクセスが容易になったこともこの動物の減少要因の1つとなっているという。
A Shawl To Die For
密猟者の中にはもちろんチベット人が含まれると思われるが、このネパールへの密輸に関しては軍が関与している可能性が高いと思われる。
新華社は2008年に、政府の野生動物保護姿勢をアピールし、観光客誘い込みを目的に、青蔵鉄道付近をチベタンアンテロープが走る写真を掲載した。しかし、後にこれは捏造写真であったとして謝罪している。
参照:8日付けphayul http://www.phayul.com/news/article.aspx?id=32788&article=Chiru+wool+worth+US%2440m+from+Tibet+seized+in+Nepal
ウィキペ:http://ja.wikipedia.org/wiki/チルー
http://en.wikipedia.org/wiki/Tibetan_antelope
WWF:http://wwf.panda.org/what_we_do/endangered_species/tibetan_antelope/
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)