チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2013年1月4日

ジェクンドの土地強制収容に抗議し 北京でチベット人女性が焼身

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0301a1焼身後病院で治療を受けるパッサン・ラモ

カム、ジェクンド(ケグド、玉樹)は2010年4月14日、大地震に襲われ、中国政府の公式発表においても2690人が犠牲となった。これに対し、現地のチベット人は1万人以上が犠牲になったとみなしている。この地震については過去ブログhttp://blog.livedoor.jp/rftibet/archives/51434523.html 等を参照。

中国政府はこの地震の被災者を救済するという名目で数千億円の寄付金を集めた。しかし、この寄付金の実際の使途は全く不透明であり、ごく一部しか直接被災者救済のために使われていないのではないかと疑われている。実際、ほぼ3年経った今も多くの被災者がテント暮らしを余儀なくされている。また、政府はジェクンドを全く新しい観光都市に生まれ変わらせるという計画を立て、そのために強制的土地収用を行っている。これに対し、チベット人たちはこれまでに何度も抗議デモを行っている。

去年6月27日には土地強制収用に反対し、ケグ地区の70世帯の住民が抗議デモを行った。この時、デキ・チュンゾムと呼ばれる40歳前後の女性が焼身抗議を行った。(詳しくはhttp://blog.livedoor.jp/rftibet/archives/51752429.html )彼女は警官に連れ去られ、今も行方不明のままである。

そして、昨日VOTが中国のCCTVの発表を引用し伝えたところによれば、去年の9月13日に同じくジェクンドの土地強制収用に抗議し、62歳になるパッサン・ラモ(པ་སངས་ལྷ་མོ་)という女性が北京にある中央政府の住建部(建設省)の前で焼身抗議を行ったという。この事実はこれまで全く亡命側に伝えられていなかった。また、これを政府系のメディアが今頃報じたというのも不思議ではあるが、VOTの説明によれば、この焼身の事実が中国のマイクロブログである博微などにより広まり、この事実を隠し続けている政府に対する批難の声が高まったから、仕方なく発表したのであろうという。

パッサン・ラモが北京に行き、焼身を行うに至った経緯をVOTは以下のように伝える。ジェクンドの扎曲北路にあったパッサン・ラモの自宅は地震に持ちこたえ、政府の査定によってもこの地区の98%は使用可能という判断であったという。しかし、この地区の地震後の再開発を担当していた吴德军という書記は、地区の住民157世帯が共同で9回も請願書を提出したにも関わらず、強制立ち退きの命令を下した。

0301a2強制収用される前のパッサン・ラモの自宅

嘗ての彼女の家は大きく437平方メートルもあったが、強制移住後与えられた家は80平方メートルしかなかった。このような不当な扱いに対し、パッサン・ラモはこれを中央政府に直訴しようと北京に向かった。しかし、北京で彼女は精神病であると言われ、まったく取り合ってもらえなかった。そのような状況の中で、彼女は思い余って焼身という手段で抗議することを決心したと思われる。

この事実を当局は隠し続けていた。そして最近、ジェクンド州の民族歌舞団の副団長であった彼女の娘がネットを通じ、母親の焼身の顛末とともに、ジェクンドにおける政府の不当な強制移住、寄付金の不正流用等を暴いたのだった。ネット上では彼女の訴えに対し数百万人が反応したという。

娘は焼身の事実、強制移住の実体、寄付金の不正流用だけではなく、8級(中国の耐震基準)の地震にも耐えられると言われていた新たに建設中の放送局、病院、学校等が去年4月10日に発生した4.1級の地震により倒壊したこと等も報告しているという。

家族全員がこの強制収用に反対したことにより、娘は職を失い、兄弟も職を失った。政府系TVであるCCTVはこの焼身を伝えながらも、ジェクンドの復旧事業は法律に基づき公正に行われていると発表したという。これに対し、ネットユーザーたちは「強制移住が法律に基づいているというなら、その法律自体が間違っているのではないか」という意見が多く寄せられているという。

焼身したパッサン・ラモは30年以上政府の職員として働いていたという。

彼女の焼身をチベット内地焼身抗議者の中に含めれば、これまでの内地焼身者の数は98人となる。
北京でチベット人が焼身抗議を行っていたということが判明したのは初めてである。このケースが示すように、他にもこれまでに外部に伝えられていない焼身が発生している可能性は否定できないと思われる。

参照:3日付けVOT中国語版http://www.vot.org/?p=20531
3日付けTibet Express チベット語版http://www.tibetexpress.net/bo/home/2010-02-04-05-37-19/9936-2013-01-03-15-38-13

无标题復興が一見順調に進んでいるかのような印象を与えるために、最近地震被災地のジェクンドを訪問し、チベット服なんかも着て見せる温家宝首相。ついでに、「僧侶は戒律を守るべきだ」という発言によりチベット人僧侶の焼身を禁めたつもりにもなっておられる。このようなことを発言する前に人権や宗教の自由、民族自治を唱った自国の憲法を守って頂きたいものだと思う。唯物思想政府が僧侶の戒律うんぬんを言うのも何だかなだし、温さんは菩薩戒に何が書いてあるかはご存知ないようである。

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

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