チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2012年12月11日
ダラムサラ:ダライ・ラマ法王ノーベル平和賞受賞記念式典 世界人権デー世界同時チベット連帯日デモ
南インドのデブン僧院で行われたノーベル平和賞受賞記念式典に出席された法王(この写真のみVOTより)
今日はダライ・ラマ法王が1989年にノーベル平和賞を受賞された23周年記念日であると共に、国際人権デーということで、ダラムサラでも朝からこれに合わせたイベントが行われた。
まず、朝9時からチベット亡命政府と亡命議会が主催する「ダライ・ラマ法王ノーベル平和賞受賞記念式典」が行われた。もっとも今年は本人法王は南インド、首相はデリーということで盛り上がりはイマイチであった。もちろん、相次ぐ焼身も影響もあり、かつてのように一日中歌え踊れのイベントではなかった。
それでも、まずは国旗掲揚から始まり、ドラマスクール歌舞団による「法王のノーベル賞を喜ぶ歌」が歌われた。その後は宗教大臣の長~い演説、議会議長の演説、インド人の演説と続く。その後、可愛い子供たちの歌と踊りがあったのだが、私はあまりに長い演説と式典に飽きたチベメディア仲間と共にお茶しに行って、この可愛い踊りは逃してしまった。
今日ノルウェーのオスロではノーベル平和賞授賞式が行われた。今年はEUが受賞したということで、世界のチベット支援グループをまとめるITN(国際チベットネットワーク)はEUリーダーたちに公開レターを送った。この中でITNはEUのノーベル平和賞受賞を祝福すると共に、チベット問題への介入を求めた。
「ダライ・ラマ法王がノーベル平和賞を受賞された後23年が経ったが、その時法王が表明された祖国の平和と安全のビジョンは未だかつて実現されていない。それどころか、1989年よりも今のチベットの状況は悪化している」と述べた後、
現在相次いで焼身抗議が行われているチベットの緊急事態が報告され、「この危機的状況に対し世界は答えるべきだ。特にその紛争解決における多面的アプローチを標榜するEUはチベット問題を解決するためのイニシアティブを取るべきだ」と要請し、またEU内に「チベットコンタクトグループ」を設置して欲しいと続ける。
長い式典が終わった後、12時前ぐらいから下ダラムサラに向かっての長いデモ行進が始まった。
「世界人権デー」に合わせて、チベット亡命政府は今日12月10日を「世界同時チベット連帯日」とし、世界中のチベット人とサポーターに連帯行動を起こすよう要請した。日本でも8日から3日間連続で連帯を示し、チベット問題を訴えるためのデモや上映会が行われた。世界中で色々なイベントが行われたと思われる。
また、今日は7月6日の法王誕生日にダラムサラから始められた「チベット真実のトーチリレー」の最終日。今日、リレーと共に世界中から集められた35万1千の署名がニューヨークの国連本部、ジュネーブの国連人権委員会、デリーの国連支部に同時に届けられた
さて、何らかの反応を引き出せるのかどうか、これからを注目したい。
デモは国際人権デーに合わせ、チベット内の危機的人権状況を世界に知らせるため、中国政府に対し人権弾圧を止めるよう要求するために行われたわけだ。
僧侶、一般住民、外人サポーター、TCVその他の生徒合わせ約1500人が参加した。相次ぐ焼身を受け、参加者の声の張り上げようは相当であった。特に「中国はチベットから出て行け!チベットに自由を!」の声は特に大きかったようである。
今日のデモを伝えるTibet Expressの記事の中である人が「今日はいつになく多くの人が参加してくれて、嬉しかった。ただ、寂しいのは政府主催と言うのに政府の人は見かけず、議員の姿もほとんど見かけなかった。チベットの運動はチベット人全員のものだ、彼らが参加しないということは寂しいことである」と話ていた。
これはダラムサラに限ったことではないようだが、(日本でも)デモやヴィジルを主催し参加するのはNGOの仕事であり、政府の人は参加しないということが多いようだ。ちなみに今日は祝日でオフィスは休みであった。
ルンタ・レストランのチベット人従業員7人は全員参加してた。よろしいことである。チベットでデモに参加した人たちは、もちろんここでも参加するわけである。
さて、チベット内の話になるが、中国は世界人権デーなんて関係ない、中国には中国独特の人権基準があると豪語するように、今日も人権蹂躙を繰り返している。このところ、焼身に関わった、情報を外部に漏らしたとして連行され拷問を受けたり、刑期を受けるという話が続いている。
今日はレゴンにある黄南民族師範学校の生徒18人が、理由も知らされず連行されたというニュースが入っている。
今月5日には、11月26日にチャプチャで大規模な平和的抗議デモを行った衛生学校の生徒の内8人にそれぞれ5年の刑期が言い渡されたという。拘束されて10日後には5年の刑期が言い渡されたのだ。もちろん、秘密裁判によるものであり、弁護士はおろか家族の誰も呼ばれていない。デモは武力弾圧され多くの負傷者がでている。
また、先月22日、青海民族大学、青海法律学校、青海チベット工芸学校に「ダライ・ラマ」と書かれた小冊子が配られた。その中には「チベット人の焼身はダライ一味が画策したものである」と書かれていたという。これに対し24日、これらの学校の生徒4人が連署で「このような嘘は全く信じられない。ダライ・ラマ法王は世界の平和の使途であり、チベットの政治と宗教のリーダーである」等と書かれた書面を仲間の生徒たちに配った。その後、サンゲ・タシという生徒が連行され、行方不明となった。
(この部分参照10日付けTibet Timesチベット語版http://www.tibettimes.net/news.php?showfooter=1&id=7039)
また、今月1日から3日に掛け、11月26日のチャプチャのデモの情報と写真を外部に伝えたとしてセルチェン県イルティ郷にあるキャムル僧院の僧侶3人が連行されている。(参照9日付けTibet Timesチベット語版http://www.tibettimes.net/news.php?showfooter=1&id=7032)
中国の「焼身はダライ一味の仕業」「ンガバの僧侶が自白した」に対しては、議長は今日のスピーチの中で「我々は8人のケースと言わず、全てのケースについて公正な国際機関による調査を求める」と発言。センゲ首相は今日の声明の中で「大歓迎するから、中国政府はダラムサラに調査員を派遣して、全ての資料を精査して証拠を探してほしいものだ」と発言。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)