チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2012年12月9日

悲しみの「灯明祭」

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67861_4600465582678_1313402506_n昨日のラサ、ジョカン前広場。巡礼者の姿は見えず、ただただ大勢の部隊が整列している姿が写っている。手前のジョカン屋上にはこれから灯されるであろう灯明が準備されている。

昨日、12月8日はチベット歴の10月25日に当たり、ゲルク派の祖師ジェ・ツォンカパ(1357年~1419年)がガンデン僧院で崩御された日とされる。この日にはチベット人なら必ず家の外に沢山の灯明を灯す。「灯明祭」(チベット語ではガンデン・ンガムチュལྔ་མཆོད་)と名付けられ、ゲルク派の僧院を中心に僧院には特に沢山の灯明が灯される。

jpg-large言ってみれば、チベットのクリスマスのようなものであり、普段なら、暗い日ではなく、ツォンカパ大師の教え、偉業を思い出し、一般のチベット人たちは僧院を詣で、善行を積むと言う日なのだ。しかし、今年は特に暗い祝日となった。昨日2人のチベット人が中国政府の圧政に抗議し、チベットの自由を訴えるために自らを灯明と化し、死亡した。そして、ごらんのようにラサではかくも厳しい厳重な警戒が敷かれていた。

中国政府は繰り返し「チベット人は宗教の自由を謳歌している」と言う。そして、その実体はこのように、僧院に詣でて灯明を上げることも許されないという状態なのだ。チベット人たちはなんの武器も持っていない。そんな人々を相手にこれほどまでに部隊を動員し警戒する中国とは、ほとんどお笑い沙汰である。

012銀色の防火服を纏った兵士。まるで、映画のセットである。

中国政府はラサを「中国で最も幸せな都市」に選出している。こんなに沢山の部隊に囲まれて市民は幸福を感じることができるであろうか?それとも、これでも中国一ましな方なのか?

jpg-largeジョカンを巡るパルコルでは部隊に阻まれジョカンに近づけないチベット人たちが、遠目に部隊を眺めている。

009写真の多くは中国人旅行者が撮ったものと言われている。彼らはただ「すげえ!すげえ!かっこいい!」と思って撮った人もいるであろう。もちろん、チベット人に同情的な人もいたかも知れないのだが。

008彼らは一体何を守っているのであろう?もちろんジョカンが襲われるかもしれないというので、この寺を守ってくれているわけではない。焼身があろうと、デモがあろうと、チベット人は誰かに危害を及ぼすわけではない。

もしも焼身があれば、それは当局の役人の責任とされるから、これが怖いだけだ。そのために、チベット人をできる限り脅しつけ、その「発生」を押さえるために、これほどの労力と金を使っているのだ。
それが、どれほどの逆効果であるかなど、考えもしない。人は基本的に脅しに従う動物としか考えていないからだ。

007焼身者を捕らえ、倒すために考え出された鉄の輪っか。

中国当局は基本的にチベット人を同じ人間とは思っていない。気分次第で捕らえたり、殴ったり、最悪の場合には銃で殺そうと、警官は何も咎められない。「なぜ、焼身が続くのか?」等と考える役人はいない、もしも、そのような疑問を会議で提示するような者がいれば、その人は即クビになるであろう。全て、「ダライ一味」の仕業で片付けられる。

005最近アメリカ政府が再び、中国政府に対し「チベットの人権を守るように」と苦言を呈したが、それに対し中国外務省のスポークス(ウー)マンは「Disgusting(むかつく)。全てはダライ一味の陰謀だ。内政干渉するな」と下品な言葉を繰り返した。記者は質問すべきだ。「具体的な証拠はあるのか?」と。ま、それにしても、このような答弁を繰り返している中国は世界から笑い者にされているということをそろそろ知るべきだ。いや、百も承知で「文句あるか!」という態度なのだから、記者も質問する気にもならないのであろう。

003甘粛省当局は最近、焼身に関わったものを殺人幇助罪で訴えると言ってる。焼身者を出した、家族、地域への補助金を停止するという。連帯責任を負わせるというこのような条例自体国際法違反である。

焼身者の写真を携帯に保持していたとして刑期を受けた者もいる。刑期を受けてなくとも、多くの人々が連行され、拷問を受けている。ペマ県で焼身した僧ロプサン・ゲンドゥンの焼身に関わったとして連行されたバシュル・ドルドックは拷問の末重体となり、次の日当局が病院に運び込んだという。

焼身を見るために集まることも罪になると当局は言う。中国内でも土地強制収用に伴う焼身はあるが、そこに集まっただけで捕まったとか言う話は聞いたことがない。漢人とチベット人ではその扱いに差別があることは明白である。

jpg-large以下、ラサ以外の「灯明祭」の写真。

これはラプラン・タシキル。ここでも最近焼身が相次いでいる。

jpg-largeカム、カンゼ州ダンゴの灯明祭。
ダンゴでは今年始め大規模なデモが発生し、その時の当局の無差別発砲により多くの死傷者がでている。また、その後何十人ものチベット人が逮捕され無期を含む長期刑を受けている。

_DSC7421これから下はダラムサラの灯明祭。おまけである。悲しみの灯明祭であることはここも同じだが、平和である。

これはダラムサラでもっとも派手な明かりを灯す、キルティ僧院。夜中に焼身者を弔う法要が行われた。

_DSC7485ダラムサラ・キルティ僧院内には巨大なジェ・ツォンカパの布タンカが掲げられた。

_DSC74389-10-3の会やルンタ・レストランが入っているルンタハウス。

_DSC7457マクロードガンジ、郵便局付近。

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

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