チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2012年11月23日
<速報>22日レゴンで再び焼身・死亡 今月17人目 レゴンだけで10人目 当局は家族や地区への援助を中止し、慰問者を罰すると
昨日、11月22日現地時間4時20分頃、アムド、レゴン(རེབ་གོང་青海省黄南チベット族自治州同仁県)ドワ郷(མདོ་བ་)の路上でルンブム・ギェル(ཀླུ་འབུམ་རྒྱལ་)、18歳が中国政府のチベット弾圧政策に抗議するために焼身を行い、その場で死亡した。
遺体は当局に奪われることなく、集まったチベット人たちによりドワ僧院に運ばれ、葬儀が行われたという。
ルンブム・ギェルはレゴン県ドワ郷ドクヨラ村(འབྲོག་ཡོ་ལག་)村の出身。父の名はツェコ(またはマク・ツェコ、60)、母はすでに亡くなっている。
内地焼身者81日目、内死亡確認67人目。今月に入り17人目、レゴンだけで今月10人目。
ドワ郷では今月相次いで焼身や抗議デモが行われたことから、地区には武装した大勢の部隊が動員され、厳重な警戒が敷かれている。また、役人が何度もやって来て、焼身者を非難し、その背後にダライ一味がいるという演説が行われ、張り紙が張り出されている。ルンブム・ギェルが今回焼身を行ったのはこのような行き過ぎた弾圧に対する抗議ではないかと地元のチベット人は話しているという。
なお、中国政府系メディアである新華社もこの焼身について報じ、焼身者の名前と年齢をリボン・ツェリン、19歳と発表しているという。このところ新華社はチベット人焼身のニュースを流すことが多くなっている。しかし、名前や年齢がRFA,VOAその他チベット系メディアと一致しないことが多い。そして、焼身の状況説明がされる事は稀で、動機、目的についても一切書かれる事はない。焼身時焼身者がどのような言葉を最後に叫んだかももちろん伝えられない。
さらに、例えば11月19日にツォシャル、ヤズィ郷のカンツァ僧院傍で焼身抗議を行い、死亡したワンチェン・ノルブhttp://blog.livedoor.jp/rftibet/archives/51770050.htmlについて、新華社は20付けでこれを報じたhttp://china.caixin.com/2012-11-20/100462946.htmlが、その中では彼は「兄の僧侶の部屋で内側からカギをかけて焼身し、村幹部が見つけたときにはすでに死亡していた」と書かれている。RFAその他の報道によれば、「彼は僧院傍で焼身し、その後遺体が僧院内に運び込まれた」と言う。新華社の報道は明らかに、彼の焼身の目的を不明、或は政治的なものではなく個人的なものにする意図の下に事実をねじ曲げて伝えられていると言えるであろう。
中国政府は一方で、焼身者を犯罪者、精神錯乱者とし、時には金を遺族に渡してまで「焼身の動機は家庭内不和」であると言わせようとする。これらは全てなにも知らない国内の中国人や他国の人々にチベット人の焼身を政治的目的ではない、ただの自殺だと思わせるためだ。そうしておきながら、また一方でチベットの焼身者はダライ一味に唆されたテロリストであり、その家族を見舞う事も禁止しようとする。全く精神錯乱しているのは中国当局の方であるとしか思えない。
参照:22日付けRFAチベット語版http://www.rfa.org/tibetan/sargyur/selfimmolation-11222012155103.html
同中国語版http://www.rfa.org/mandarin/yataibaodao/ql3-11222012103239.html
23日付けTibet Timesチベット語版http://www.tibettimes.net/news.php?showfooter=1&id=6947
23日付けphayul英語http://www.phayul.com/news/article.aspx?article=Breaking%3A+Tibetan+teen+burns+self+to+death%2C+Toll+jumps+to+79&id=32491
焼身者を出した家族や地区への援助を中止し、弔問者を罰すると
これに先立つ11月14日、レゴンを含む黄南チベット族自治州当局はTVや張り紙により、「社会安定に関する緊急公布」と題された5か条に渡る条例を発表した。これによれば、「十八党大会の開催中、州や国全体の社会の安定を乱す事件が発生したが、これらは全てダライ一味の分裂工作であり、この外部からの唆しに乗って焼身者を勇者と讃えたり、家族を弔問する動きがある。これらの行為は断固罰せられねばならない」と前書きされている。
そして、「焼身者を出した家族への政府援助、地域への政府援助を中止すること。焼身者の家族を弔問したチベット人や僧侶を罰し、弔問を行った役人は免職処分、法要を行った僧院は閉鎖される」等と書かれている。また、「家族に香典などの形で経済的援助をすることも禁止する」という。
もっとも、地元のチベット人は、「政府援助を受けている家庭は少なく、またそれも極小額であり、地域への援助と言っても道路を作ることぐらいなので、これはまったく問題にされないであろう。罰せられると言われて弔問を止めるチベット人も僧侶もいないであろう」とコメントする。
また、レゴン地区当局は最近、小地区毎に集会を開かせ、武装した部隊が見守る中でそれぞれの家庭毎に「焼身者を出させません」という証書にサインすることを強要しているという。集められたチベット人たちは脅され「サインするしかない」と言う。
家族や地域に連帯責任を負わせ、「チベット人は宗教の自由を謳歌している」と宣伝しておきながら、一方で死者を出した家族を慰問するという行為が禁止され、やれば罰するというのが中国共産党である。焼身の責任はダライ一味にあると連呼するばかりで、自分たちの弾圧が原因であると認めない限り、焼身は終らないであろう。
参照:21日付けRFAチベット語版http://www.rfa.org/tibetan/sargyur/letter-notice-in-rabkung-11212012135905.html など。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)