チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2012年11月22日
モンゴル人リクエストによるダライ・ラマ法王ティーチングin Dharamsala
先の11月20日と21日の2日間、ダラムサラ・ツクラカンではダライ・ラマ法王による仏教講座と灌頂が行われた。今回、ティーチングをリクエストし、施主となったのはタラ・リンポチェを始めとするモンゴル人グループであった。
ティーチングにはモンゴル人約700人を始め、世界の52カ国から外人約2000人、その他チベット人を含め4000人以上が参加した。もっとも、今回は日本人グループはいなかった。通訳のマリア様がいなかったからだ。
今回のテキストは第3世ダライ・ラマが特にモンゴル人たちのために著したとされる「ལམ་རིམ་གསེར་གྱི་ཡང་ཞུན་མ་黄金の精髄と呼ばれるラムリム(菩提道次第)」。この3世ダライ・ラマ(ソナム・ギャンツォ1543年-1588年)がモンゴルのアルタン・ハーンから最初に「ダライ・ラマ」という称号を受けたのだ。これが「ダライ・ラマ」という呼び名の始まりである。
2日目に行われた灌頂は金剛手(チャナドルジェ/バジュラパニ)であったが、この仏神は特にモンゴルの守護神として有名である。
法王は最初に法王のサイトdalailama.comに新たにモンゴル語バージョンが新設されたことに触れ、以下のように話された。
「昨今、物質的進歩が顕著だ。しかし、機械の多くは弾圧に利用されたり、執着心を増すような機会を増やすことが多い。でも、最近開発されたインターネットは人々の間に非暴力や道徳を説いたり、チベット問題に関心を喚起することに役立っている」
「モンゴル人は代々仏教を信奉して来た民族だ。仏教の中でもチベットの仏教が広まっている地域だ。非暴力の教えが広まるために、また、環境意識等を高めるために、機械(インターネット)が使われるということは喜ばしいことだ。機械には心はないから、機械が徳を積むということはない、しかし、この種の機械技術は人を良き方向に向かわせるために使われているのであるから、機械も徳を積んでいるようなものだ。だから、私も非常に嬉しい。何年も掛けてモンゴル語バージョンを作って下さった人たちにお礼を申し上げたい。ずべては良き心を広めるためだから、これは徳を積んでいると言えるのだ。だからその仕事に関わった人たちは喜ぶべきだ。そして回向することが大事だ。私も随喜し回向する。ありがとう」
さらに続けて、「一般にアジア諸国の中には仏教を奉じる人々が多くいる。特にモンゴルは、古よりチベット仏教と特別な関係を結んでいる。近代においては、1920年代から多くのモンゴル人がチベットに仏教を学ぶために来るようになった。1959年には私と一緒に亡命した人たちもいる」
「チベット仏教はモンゴル人のアイデンティティーになっていると言えよう。民族にはそれぞれ独特のアイデンティティーがある。例えば、我々チベット人はそれぞれの個人が仏教徒であろうとなかろうと、仏教はチベット人の根本的な特徴、アイデンティティーとなっている。モンゴルも同様だ。モンゴルでも仏教徒もそうでない人もいるであろう。しかし、民族を全般的に語る時には仏教がその文化の基礎、特徴となっている。だらか、仏教、特にチベット仏教、カンギュル(教典集)・テンギュル(論書集)300巻が伝える仏教が民族の基礎、特徴となっているのだ。だから、これに関心を持つ事は非常に良い事だし、勉強し教えを守ることが大事だ」
「愛」について:
「『愛』は全ての動物に自然に備わっているものだし、必要なもの、利益をもたらすものだ。特に人間社会には結びつきが非常に大事だが、これをもたらすものは愛だ。力ずくで社会を作っても、心の中に信頼、思いやりがなければ、何の利にもならない。我々は社会的動物と呼ばれるように社会は大事だが、この基礎は愛だ。一人一人が結びつくためには愛が必要だ。愛は当然必要なものだし、もともと備わっているものなのだ。宗教はこの自然に備わっている愛を意図的に強め、これを強調することを説くというのが一般だ。だから、愛は宗教に信を持つ者も持たない者も、感情を持つものなら誰でも大事にすべきものだなのだ」
テキストの講義はいつもの序破急スタイルで、最後は飛ぶようにして一日にして終了。以降の写真は2日目より。
「師を見つけ、師を吟味し、師に仕える方法」から始まり、「下士・中士・上士」の教え、六波羅蜜、止観双運までを説く「ラムリム」についてはすでに日本語で様々な解説書が出ているので、それを参照して頂きたい。
今回の灌頂について法王「今日は密教の教えは、密教を4つや6つに分けるその中でも無上ヨガタントラの教えだ。パギュ・マギュ(父系・母系)のどちらに含まれるのかははっきり知らないが、おそれくマギュであろうと思う。インドのサワリタから始まり、チベットでは多くの成就者がこれを行じている。ジェ・ツォンカパも日々これを行じたと言われている」
「顕教であろう密教であろう、その道の基本、基礎は菩提心と空性理解である。空の理解は3乗(声聞(小乗)、大乗、密教乗)全てに共通するものだ。違いは出離を主に空を行じて煩悩障を断つ道を声聞、菩提心と共に空を行じることで所知障を断じる道が大乗だ。顕教を行じる時もこの2つが基礎だ。密教を行じる時もこの2つが基礎だ。だから、灌頂を受ける時にはこの2つの心を生起する必要がある」と説かれた。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)