チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2012年11月15日
「十八党大会」に合わせ、チベットの各大学の教師、学生、僧院僧侶たちが連名の請願書を中央政府に提出
11月8日から14日まで北京で行われた「十八党大会」に合わせ、チベットの各大学の学生と教師、幾つかの僧院の僧侶たちが連名で中央政府に対しチベット政策に関する請願書を提出していた。
この事実は最近インドに亡命を果たしたあるチベット人により伝えられた。彼によれば、大会に先立つ10月5日に中央民族大学、西北民族大学、青海民族大学、青海教育学院、海南州師範学院、その他チベット内の大学、高校の教師と学生、及び幾つかの僧院の僧侶たちが名前を明記した請願書を提出したという。
勇気ある行動である。内容は内地チベット人の思いを正しく代弁していると思われる。
請願書の内容は以下の8項目:
1. 社会の調和と安定の基礎は民族平等と各民族間の相互尊重、政治的抑圧と経済的疎外から自由な環境であるが故に、中央政府は各民族を尊重し、抑圧のない環境を創出することに努めて頂きたい。
2. チベットの自治区、各自治州、自治県の公的機関において、中国語と共にチベット語を公的言語として認めることは民族平等の基礎となるので、このことを検討して頂きたい。
3. チベット民族の根本的発展を促すためには、宿舎などの建築物を建てるだけでなく、各民族大学のチベット語学部の下にチベット史、政治、法律、経済、科学、社会学等の学科を新設し、各分野におけるチベット人専門家を養成して頂きたい。これは民族発展のための根本的システムであり、新知識を普及させ民族が発展する基礎となるものである。故にこのことを考慮して頂きたい。
4. チベット人居住区にある中学校の教科書をすべて中国語に変えたことは、民族蔑視の野蛮な政策である。故に中央政府はこの政策を必ず変更すべきである。
5. チベット人は物や金銭のみを求め、これに価値を置くという民族ではなく、精神的利徳に対し物質的利徳と同様の価値を認める。チベット人は物質的繁栄よりも精神的徳の増幅に価値を置く民族であるから、チベット人居住区においては信仰の自由と権利が保証されるべきである。
6. チベット人居住区においては、各僧院に対し党の意向と要求のみを押し付けようとするのではない、公正な政治的権力を行使できる職員を正しく育成すべきである。
7. チベット人居住区に漢族や回族等の他の民族を多数移住させ、歴史的にチベット人の土地であった場所においてチベット人が少数民族になりつつあるという状況に対し、チベット人の多くが不安と反発を感じているということを考慮して頂きたい。
8. 中央政府が制定した自治区、自治州等に対する法律を正しく実行すべきである。チベット人地区における過剰な鉱山開発を中止し、遊牧民強制移住政策を変更すべきである。チベット人は何千年にも渡り地神その他の神々、精霊を自然界に認め、また仏教的教えにより環境を守り、敬って来た民族である。チベットの文化と慣習等を限度を越えて踏みにじることは、チベット人の心に耐え難い苦しみを与えることになる。このことを考慮して頂きたい。
参照:13日付けTibet Timesチベット語版http://www.tibettimes.net/news.php?showfooter=1&id=6899
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)