チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2012年11月6日

李方平「中国の収容所群島」

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laogai今日は中国の「労働教養制度」について、新進気鋭の弁護士李方平さんが書かれたコラムを紹介する。

「労働教養制度」というとなんだか高尚な制度のようにも聞こえるが、要するに共産党に楯つくものを強制労働キャンプ、別名「労改・ラオガイ」に送り込むという制度のことだ。もちろんチベット人も大勢この制度の下でキャンプ送りになっている。例えば、2011年3月16日にンガバで焼身抗議を行い死亡した、キルティ僧院僧侶プンツォの焼身を手助けしたとして、キルティ僧院の僧侶3人がキャンプ送りになっている。詳しくは>http://blog.livedoor.jp/rftibet/archives/51700951.html

09-blogger-labour-campただ、この強制労働キャンプ送りというのは、すべて秘密裏に行われることが多く、失踪したままの多くのチベット人の内の少なからぬ人々がここに送られているであろうと言われるが、その実体は掴みにくく、明らかにされることが少ない。

このコラムを日本語で読む事ができるのは翻訳して下さった@sinpenzakkiさんのお陰である。以下、本人の了承を得て、ブログ「思いつくまま」http://sinpenzakki.blogspot.inから転載させて頂く。

中国の収容所群島

中国の労働教養制度はチャレンジに直面している

李方平

(New Statesman艾未未編集号より)

 労働教養制度は一種の「中国式」の懲罰方法である。法廷尋問の必要もなく、弁論手続もなく、警察が「労働教養委員会」の名義で市民の人身の自由をはく奪し、労働教養所の中で最長4年間の強制労働と思想教育を行う。中国国務院が1991年に公布した「中国人権白書」では、労働教育は刑事処罰ではなく行政処罰であるとされている。

 労働教養は中国政府がソ連にならって作ったものである。1957年に国務院が「労働教養問題に関する決定」通達を出し、裁判で有罪にすることのできない「反革命分子」とその他の「悪質分子」が「不満感情」や「破壊扇動」を広めるのを防止することを目的とし集中管理することとした。これが労働教養制度の始まりと考えられている。階級闘争の激化に伴い、「右派」も労働教養の対象にされた。1979年の改革開放以降、政府は刑事処分を科すほどではない軽微な違法行為者を労働教養の対象にした。この10年のうちにも、陳情者、異論派が労働教養の対象に加えられ、労働教養制度はますます政府の「安定維持」の手段となっている。

 中国政府は毎年の労働教養収容者を公表したことがない。公安部の「公安工作における国家秘密とその秘密等級の範囲に関する規定」によると、「公布されたことのない全国と各省、自治区、直轄市の労働教養、少年収容の概況と統計数値は国家機密とする」とされている。2003年、司法部は「エイズ予防管理戦略計画」の中で、2001年末に全国に340か所の労働教養所があり、31.7万人を収容し、平均収容期間は1年7か月にのぼることを初めて明らかにした。

 労働教養事件は報道の「敏感エリア」で、報道できないか、もしくは厳格な自己審査を経なければならない。ウェイボー〔中国版ツイッター〕などのセルフメディアの広がりにともない、最近いくつもの全く荒唐無稽な労働教養事件がインターネット上で伝えられるようになった。

 そのうちの2つの事件は湖南省で発生した。唐恵、湖南省永州市で起きた「11歳の少女への売春強要事件」の被害者の母親は、2012年8月2日午前、十数人の特殊警察に突然連れ去られ、当日のうちに労働教養1年の決定が出た。理由は彼女が警察が犯罪者をかくまっていると陳情して訴えたことが「公共の秩序を乱した」というのだ。長沙市の25名の強制収用陳情者は、2011年夏に天安門広場で国旗に向かって土下座したとして、そのうち21名が「混乱を作り、天安門広場の社会秩序を乱した」として労働教養とされ、残りの4人は裁判で有罪とされた。

 他の二つの事件は薄煕来が重慶市のトップだったときに発生した。二人の互いに見知らぬ重慶市民の方洪と彭洪がウエイボーで批評したり転送した漫画が当局によって「革命歌を歌い暴力団を取り締まる」キャンペーンを風刺、誹謗したとみなされ、労働教養1年と2年に処された。方洪の親族は人権弁護士の許志永博士の法律支援を求めたが、許志永が重慶に到着後、その親族は突然失踪してしまった。薄の失脚で、この二つの事件はやっと訴えと取り消しの可能性が出てきた。

 社会各界で上述の事件について議論が続いており、厳しい批判もある。しかし「安定をすべてに優先させる」の現実的考慮のもとに、中央の治安維持担当機関と地方政府はどちらも労働教養制度という手続が簡単で、威力の大きな社会管理手段を維持することを願っており、労働教養制度の改革に反対している。そのことが労働教養制度の代替案とされる「違法行為矯治法案」が人民代表大会常務委員会で8年間もたなざらしになっている主な原因である。

李方平、38歳、中国社会科学院大学院卒、法学修士、現在北京瑞風弁護士事務所弁護士で、刑事弁護を得意とする。長年にわたって中国の労働教養制度を観察・研究してきた。2007年に茅于軾ら69名の学者、法律家と連署で国務院への公開状を発表し、労働教養制度の廃止を呼びかけた。

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

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