チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2012年11月1日
チベット語教育に熱心な僧侶拘束
可愛い子供たちに囲まれチベット語を教える僧ジンパ・ギャンツォ
アムド、マチュ(甘粛省甘南チベット族自治州瑪曲県)の警察は10月25日、僧ジンパ・ギャンツォ(38)を成都の病院で拘束した。彼は成都の病院で治療を受けているラマを見舞いに行ったところだった。
マチュにあるマユル・サムテン・チュコルリン僧院の僧侶であるジンパ・ギャンツォは、地域でチベット語教育に熱心な教育者として有名であった。彼はこれまでにも何度も拘束されている。2008年にはマチュで起った抗議デモの情報を外国に伝えたとして拘束された。今年3月30日に拘束された時には、拷問を受けた挙げ句、4万元の罰金を払い解放された。拘束の理由は明らかにされていないが、地域の人々は彼の社会活動と関係しているという。
2009年には、彼と何人かの友人がチベット語の擁護と発展を目的にしたNGOを立ち上げた。この会は冬休みに地域の子供たちを集め、チベット語クラスを開き、「希望への道」と題されたチベット語の雑誌を発行していた。この時期、当局は彼を拘束し、何時間も尋問した後解放し、雑誌の発行を禁止した。
僧ジンパ・ギャンツォは11歳の時、マユル・サムテン・チュコルリンの僧侶となった。カンゼ州にあるラルンガル僧院にも学び、1999年にはそこのチベット語文法と詩のクラスを卒業している。その後、再び元の僧院に戻り、教師となり、会計係り等の要職も勤めていた。
彼は今も行方不明であり、家族は今度こそ、実刑を受けるのではないかと心配している。
マチュではこれまでに何回も中学生による「チベット語擁護デモ」が行われている。また、今年3月3日にはマチュ・チベット族中学校の女子生徒であったツェリン・キが、新学期が始まり教科書が突然中国語に変わったことを知った直後に焼身抗議を行い、死亡している。参照>http://blog.livedoor.jp/rftibet/archives/51733229.html
http://blog.livedoor.jp/rftibet/archives/51738076.html
当局はこれまでにも、チベット語を教えようとする教師や僧侶を拘束し、罰している。僧院付属や遊牧民地帯で地域のNGOにより始められた学校を強制的に閉鎖させ、教師を拘束している。全て、チベット文化・宗教の核であり、チベット人アイデンティティーの基であるチベット語の衰退を目的とするものである。法王のおっしゃる「文化的ジェノサイド」の1つである。
参照:11月1日付けTCHRDリリースhttp://www.tchrd.org/index.php?option=com_content&view=article&id=305:tibetan-monk-and-educator-arrested-journal-banned-&catid=70:2012-news&Itemid=162
10月31日付けphayulhttp://www.phayul.com/news/article.aspx?id=32351&article=Arrests+continue+in+Tibet%2c+Two+monks+detained+in+separate+incidents
10月29日付けTibet Timesチベット語版http://www.tibettimes.net/news.php?showfooter=1&id=6826
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)