チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2012年10月17日
焼身の原因は「夫婦仲」と言えば100万元やる
焼身、死亡したサンゲ・ギャンツォの家族に対し、彼の焼身の原因は「夫婦仲」であったと言えば100万元(約1260万円)与えよう、と当局が持ちかける。
今月6日現地時間正午頃、アムド、ツゥ(ツォエ 合作)から10キロほど離れたドカル僧院の仏塔前でサンゲ・ギャンツォ(27)は「ダライ・ラマ法王をチベットに!チベットに宗教と言語の自由を!」と叫び焼身、その場で死亡した。
RFAに現地から寄せられた報告によれば、最近、悲しみの中にある家族の下にツゥ市の警官と役人がやって来て、「サンゲ・ギャンツォの焼身は中国政府への抗議ではなく、夫婦仲が悪くなり、それを苦にして焼身したのだ、という手紙を書き、サインするなら、家族に100万元与えよう」と持ちかけた。
これに対し、妻はこの提案を断固拒否し、「サンゲ・ギャンツォは家族をとても大事にする人だった。年寄りも含め、みんな彼の働きにより生活していた。彼の焼身は夫婦仲とは全く関係ない」と明言したという。
サンゲ・ギャンツォは両親と妻、2人の幼い子供を残し、焼身抗議を行い、死亡した。
参照:17日付けTibet Timesチベット語版http://www.tibettimes.net/news.php?showfooter=1&id=6759
中国当局はチベット人が抗議の焼身を行うと、あの焼身者は「犯罪者」であった、「女を買うようなぼんくら僧侶」であった、「異性問題」に悩んでいた、「夫婦仲」「嫁の両親との仲」が悪かったことが原因だ等々と発表する。全て、焼身の原因が自分たちの圧政であることをごまかすためである。もちろん、このような嘘は悲しみの中にある焼身者の家族を始めチベット人の心を逆なでする。
今回は大金をちらつかせながら家族を買収しようとした。金で人の心を買えると思うのが中国人(中国当局)だ。中央に証拠の手紙と共に良い報告?ができれば、そのためにこれぐらいの金を使ってもいいということであろう。もっとも、今回、拘束され、拷問の末に無理やりサインさせられなかっただけでも幸いということかもしれない。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)