チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2012年10月10日

<貴重映像>チベット潜入TVレポート 「本心を話せば殴り殺される」

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121010124251GAオーストラリアのテレビ局ABC(Australian Broadcasting Corporation)は10月9日、特派員ステファン・マクドネルのチベット潜入映像を流した。

10分ほどの番組に編集されたこの映像の中で、チベット人の焼身映像も流され、「道路には戦地のようにバリケードが築かれ、まるで緊迫時の北アイルランドのようだ」というアバの最新映像も紹介されている。チベットの現状と焼身の背景をテーマとし、中国外務省、ンガバ県知事、センゲ首相のコメントを含む。レポーターのステファン氏は警官に追われながらもチベット人の生の声を聞こうと、相当頑張っている。

この中、特に最後にラプランでインタビューに答えたチベット人女性のコメントが印象的だ。彼女は「もしも本当のことを話せば、逮捕され、殴り殺される」と話し、中国政府のチベット弾圧政策がチベット人を焼身に追いやっていると明言、「世界中の国が共産党が崩壊するように祈るべきだ」と言う。以下のURLに映像と英文書き出しが載っている。http://www.abc.net.au/7.30/content/2012/s3607238.htm#

この中の後半部分を日本語にしてみた。

ロプサン・センゲ(チベット亡命政府首相):我々は焼身を含め、極端な行動を思いとどまるようにと言い続けている。しかし、、残念ながらチベット人たちはこれが唯一の抗議方法だと言っているようだ。つまり、他のどんな抗議方法を行っても結果は似たようなものだからだ。逮捕され、拷問され、しばしば死に至る。

ステファン・マクドネル(レポーター):今年始め、ンガバ県知事が珍しく公衆の前に現れンガバの焼身を非難した。

ンガバ県知事呉沢剛:彼らは焼身する前に「チベットに自由を」(この部分中国語では「チベット独立」となっている)という分裂主義的スローガンを叫んでいる。

ステファン・マクドネル:そして、中国政府は最終的に誰が非難されるべきかを知っているという。

呉沢剛:ダライ・ラマはこれらの行為を予防しようとせず、このような非人間的、反社会的テロ行為を奨励している。

ロプサン・センゲ:もしも、中国政府がチベット内の焼身や様々な抗議活動を終わらせたいと思うなら、チベットをオープンにし、チベット人に自由を与え、人間的に扱い、基本的自由を与えれば良いのだ。

尾行され、詰問され、ンガバ地区を追い出され、甘粛省のサンチュ(夏河)県に出る。そこでも、尋問を受け追い出されようとしたが、早朝ラプラン僧院にでかけ、最後のインタビューを試みる。

チベット人女性:焼身する人々がいることは本当です。話は聞いています。彼ら(中国当局)が死に追いやっているのです。中国共産党とこの国は何か間違っている。

ステファン・マクドネル:誰が間違っているとおっしゃったのですか?

チベット人女性:なぜ彼らが焼身するかと言えば、この国では僧院が弾圧されているからです。私たちには何の権利もない。話す権利もない。彼らは私たちに何を話すべきかを細かく指令する。もしも、本当に本心で考えていることを話せば、つかまり、殴り殺される。

ステファン・マクドネル:彼女は熱心な仏教徒であると言い、真実を話すことを恐れないと言った。しかし、話の内容が非常にデリケートであるが故に彼女の顔を隠すことにした。彼女は例えば、僧院の中には政府に買収された僧侶もいると言う。

チベット人女性:ラマの中には悪いのもいる。ラマの服を着ているが、国が金を渡せば、それを受け取り政府の言いなりになるヤツもいる。

ステファン・マクドネル:彼女は大方のチベット人は貧しく生活を向上させる望みがないという。そして、ここでは若い僧侶たちが問題を解決しようと焼身する。

チベット人女性:世界の全ての良心のある国は中国共産党が崩壊するようにと祈るべきだ。そうすりゃ、ここから消える。彼らは本当に悪だ。
(中国語を解する@uralungtaさんによれば、このチベット人女性はつたない中国語を使い、一生懸命訴えているという。この部分だけ、uraさんによる[逐語直訳]を追記する。
「世界の国が、なむあみだぶつの国が、尊重(する心の)ある世界の国が、なむあみだぶつのある、つまりこう(両手を合わせて祈る仕草)、全部来て、共産党を、あれを倒して、いっさいがっさい壊して。あれはもう要らない、あれ、悪い、とってもひどい。」

ステファン・マクドネル:再び、警官と政府の役人が我々を見つけ出した。今回はもう逃げられない。彼らは我々がまだ、街から出ていないことに怒っている。

(上級警官に)何が問題なのか?なぜ追い出したいのか?

上級警官:政府の考えなのだ、、、

ステファン・マクドネル:でも、なぜだ?何が問題なのだ?

上級警官:あなた方がジャーナリストだからだ。

ステファン・マクドネル:我々はジャーナリストだ、色んなところに行く。ここの何が問題なのだ?

上級警官:ここはチベット人居住区だからだ。すまんな。

ステファン・マクドネル:この地区を完全に離れるまでエスコートされた。我々の後ろには恐怖と反感と悲劇が残された。チベット人に受け入れられる徴候の全く無い政策とともに。

追記:このABC放送分のほぼ日本語全訳(一部省略)を福田洋一先生がやって下さった。
以下その訳を追加する。

ライヒ・セイルズ(キャスター):中国のもっとも遠い地域、チベットにおいて、恐ろしい反乱が信仰しています。この一年で50人以上の僧侶が、政府の弾圧に抗議して自らに火を点けて亡くなりました。かれらの抗議は民衆の目からは隠されています。なぜならば、ジャーナリストやテレビカメラはチベット自治区や近隣の地区に入ることが禁じられているからです。しかし、中国特派員のステファン・マクドネルは、以下のレボートを作成するために、秘かに西中国に潜行しました。以下の報告には焼身抗議の映像が含まれることにご注意下さい。

ステファン・マクドネル(リポーター):中国の西のかなたにあるチベットでは、何世紀もの間変わらなかったものがたくさんある。しかし、これの静かな光景の背後で、爆発寸前の緊張が高まっている。
チベット人の中には、中国の支配に絶望した結果、衝撃的で極端な形で抗議をするものがいる。
 彼らは、ガソリンなどの燃えやすい物を体に浴びて、自らに火を点けてきた。焼身抗議は、もう50人以上に上る。その大部分は若い僧侶である。最近12ヶ月で、少なくとも42人がなくなっている。中国政府は、その被害を最小限に食い止めようとしている。

劉為民(中国外務省報道官):我々は、最近の一連の事件が、明らかに、その背後にいるある者によって背後から操られ引き起こされていると信じている。

ステファン・マクドネル:インドに本拠地を置くチベット亡命政府の首相が今年初めにオーストラリアで記者会見を行った。

ロプサン・センゲ(チベット亡命政府首相):〔この問題の〕責任は中国政府にあり、またその解決策も中国政府の手にある。焼身抗議者は、そのことを非常にはっきりと示した。我々は、全ての人間、たとえば全てのオーストラリア人と同様の基本的な自由を欲しているのである。

ステファン・マクドネル:チベット高原のほとんどの地域は、外国のジャーナリストが足を踏み入れることのできないところになっている。しかし、我々は、秘かに四川省に潜入する道を見つけた。ここは大部分の焼身が行われた地域である。
(中略)
ステファン・マクドネル:この若者は、自らの伝統に誇りをもっている。そしてその伝統は深く仏教に結び付いていると彼は言う。

チベットの若者:私たちの生活の中でもっとも大事なものは文化です。それは全部私たちの仕事の中に〔生きて〕います。それは書物から出てくるものであり、それゆえ、僧院が私たちの生活の最も重要な源泉なのです。

ステファン・マクドネル:しかし、人々がオープンに話せない事柄はたくさんある。チベットでは権力の監視を逃れることは極めて難しい。このような村々では、いたるところに〔権力の〕目と耳がある。それゆえ、我々〔外国人ジャーナリスト〕が、一般の人とコンタクトを持てたとしても、そして彼らが焼身のことを知っていたとしても、彼らは実際にはそれについて話したがらない。とりわけカメラの前では。
 しかし、ここで十分な時間をかければ、話をしようという者も現れてくる。我々は小さい山小屋で、貧しい一家を助けている一人の僧侶に会った。彼は確かに、その近隣で焼身している若い兄弟たちのことについて話を聞いていた。

僧侶:彼らは、〔中国の政策に〕内心穏やかではありません。それが彼らを焼身に駆り立てる理由です。

ステファン・マクドネル:アバ県は、我々がこの僧侶と会ったところから、そう遠くない。封鎖されたこの〔アバの〕町の中で密かに撮影された光景は、この町が軍警察とスワットチームだらけであることを示している。通りには、緊迫時の北アイルランドの戦闘区域で見られるようなバリケードが築かれている。
 アバの町だけで焼身抗議を行った人は24人を数える。若いチベット人たちがどれほど絶望して、この最も苦しい仕方で命を捨てるような抗議に駆り立てられているかを想像することは難しい。

ロプサン・センゲ(チベット亡命政府首相):我々は焼身を含め、極端な行動を思いとどまるようにと言い続けている。しかし、、残念ながらチベット人たちはこれが唯一の抗議方法だと言っているようだ。つまり、他のどんな抗議方法を行っても結果は似たようなものだからだ。逮捕され、拷問され、しばしば死に至る。

ステファン・マクドネル:今年始め、ンガバ県知事が珍しく公衆の前に現れンガバの焼身を非難した。

呉沢剛(ンガバ県知事):彼らは焼身する前に「チベットに自由を」(この部分中国語では「チベット独立」となっている)という分裂主義的スローガンを叫んでいる。

ステファン・マクドネル:そして、中国政府は最終的に誰が非難されるべきかを知っているという。

呉沢剛:ダライ・ラマはこれらの行為を予防しようとせず、このような非人間的、反社会的テロ行為を奨励している。

ロプサン・センゲ:もしも、中国政府がチベット内の焼身や様々な抗議活動を終わらせたいと思うなら、チベットをオープンにし、チベット人に自由を与え、人間的に扱い、基本的自由を与えれば良いのだ。

我々が訪れたチベットの町はどこも警官で一杯である。我々は必ず目を付けられ、このときから外出時には誰かが我々を尾行するようになった。同じ車が我々の背後に繰り返し現れ、監視者が到るところで涌いてでた。そこで我々は岡の上に向かった。
 政府の車が山を回ってやってきた。そこには、さっき町で見かけたのと同じ役人が乗っていた。

(中国の役人に対して)すみませんが、あなたはどなたですか。

中国の役人:彼は中国外務省から来ている。

中国の役人2:我々を撮影するな。我々を撮影することはできない。

ステファン・マクドネル:あなたのIDカードを見せて下さい。あなたが誰か、どうやって我々に証明してくれますか。

 彼らは、我々のプロデューサーとドライバーに質問をし、それから彼らは我々の安全を心配してここにいるのだと言ってきた。チベットの犬が我々に危害を加えるかもしれないと言われた。我々のパスポートをチェックしてから、彼らは我々に、ここに許可なしに滞在することはできないと言った。我々はどこか余所に行くことを条件に解放された。
 しかし、一日車で行って次の町(甘粛省の夏河)に入ると、別の一群の政府の役人と警察が待ち受けていた。

中国の役人:夏河は外国人のジャーナリストの立ち入りが禁止されている。

ステファン・マクドネル:その地域を完全に立ち去るようにという圧力があった。そこで我々は翌日、それらの追っ手よりも早起きして、最後のインタビューをするチャンスをものにした。我々はラブラン寺に到着した。そこはチベット自治区の外における最大の寺院である。そして、人権の尊重を求める抗議が行われてきた場所でもある。ここで我々に話をしたいという一人の女性と会った。彼女が言おうとしていたことは、権力が我々に聞かせたくないことそのものであった。

チベット人女性:焼身する人々がいることは本当です。話は聞いています。彼ら(中国当局)が死に追いやっているのです。中国共産党とこの国は何か間違っている。

ステファン・マクドネル:誰が間違っているとおっしゃったのですか?

チベット人女性:なぜ彼らが焼身するかと言えば、この国では僧院が弾圧されているからです。私たちには何の権利もない。話す権利もない。彼らは私たちに何を話すべきかを細かく指令する。もしも、本当に本心で考えていることを話せば、つかまり、殴り殺される。

ステファン・マクドネル:彼女は熱心な仏教徒であると言い、真実を話すことを恐れないと言った。しかし、話の内容が非常にデリケートであるが故に彼女の顔を隠すことにした。彼女は例えば、僧院の中には政府に買収された僧侶もいると言う。

チベット人女性:ラマの中には悪いのもいる。ラマの服を着ているが、国が金を渡せば、それを受け取り政府の言いなりになるヤツもいる。

ステファン・マクドネル:彼女は大方のチベット人は貧しく生活を向上させる望みがないという。そして、ここでは若い僧侶たちが問題を解決しようと焼身する。

チベット人女性:世界の全ての良心のある国は中国共産党が崩壊するようにと祈るべきだ。そうすれば、ここから消える。彼らは本当に悪だ。
(中国語を解する@uralungtaさんによれば、このチベット人女性はつたない中国語を使い、一生懸命訴えているという。この部分だけ、@uralungtaさんによる[逐語直訳]を追記する。
「世界の国が、なむあみだぶつの国が、尊重(する心の)ある世界の国が、なむあみだぶつのある、つまりこう(両手を合わせて祈る仕草)、全部来て、共産党を、あれを倒して、いっさいがっさい壊して。あれはもう要らない、あれ、悪い、とってもひどい。」)

ステファン・マクドネル:再び、警官と政府の役人が我々を見つけ出した。今回はもう逃げられない。彼らは我々がまだ、街から出ていないことに怒っている。

(上級警官に)何が問題なのか?なぜ追い出したいのか?

上級警官:政府の考えなのだ、、、

ステファン・マクドネル:でも、なぜだ?何が問題なのだ?

上級警官:あなた方がジャーナリストだからだ。

ステファン・マクドネル:我々はジャーナリストだ、色んなところに行く。ここの何が問題なのだ?

上級警官:ここはチベット人居住区だからだ。すまんな。

ステファン・マクドネル:この地区を完全に離れるまでエスコートされた。我々の後ろには恐怖と反感と悲劇が残された。チベット人に受け入れられる兆しの全く無い政策とともに。

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

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