チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2012年9月16日
このまま終わるか反日デモ
日本じゃ今、チベットどころじゃなくて中国内の反日デモの話題沸騰中ですよね、きっと。で、チベットのニュース伝える前に専門ではないがこの話を少しだけ。
この一連のデモに対する見方は色々だが、一般的には「中国(政府)は一般大衆を動かすことで日本に圧力を掛けている」であろう。もう1つ、習近平が最近2週間も姿を現さず、昨日出て来たような写真はでたが、これも替え玉の可能性も噂されるほどだし、「18大を控え権力中枢で何かきな臭い動きがある、のを隠すための大動員」だというのもある。
他に「体制内の保守派が権力闘争に利用している」というものあって、この場合の保守派とは軍部、公安であり、政権交代により指導部である政治局常務委員会のメンバーが9人から7人に削減され、宣伝・メディア担当と司法・公安担当の2ポストが格下げされるらしいというので、これを阻止するために、「ほら、中国の大衆はほっとけば、こんなことをしでかす、俺たちは重要なのだ」と思わせるためだというもの。これは政治改革や民主化を行えば大変な混乱が起るぞと脅すことにも使える。
また、「これはプチ文革であり、奴隷状態である一般民衆を使って、誰か?が現体制の揺さぶりを行っている」というのもある。これは重慶の薄 熙来がこの手である程度成功したという話を踏襲している、が私にはそうは見えない。
何れにせよ、政府当局が積極的に煽動していないにせよ、容認し、厳しく規制していないことだけは確かである。「愛国無罪」という言葉があるように、ある程度の暴徒化、泥棒化も検挙の対象とはされない。もっとも、この反日デモが反政府デモに転化することだけは非常に警戒している。今日なぜかデモ隊が深圳市党委員会の前に集まった。これを見て当局はすかさず放水銃と催涙弾を使って群衆を追い払っている。また、どこのデモだったか忘れたが、横断幕の中には「自由 民主 人権 憲政 保釣」と書かれたものまで現れた(最初の写真)。もっとも、この動きはまだ目立ったものではない。
それにしても、ジャスコやセブンイレブンを襲って商品略奪するわ、日系の工場やトヨタデーラーの事務所に火を放つわ、日本車をひっくり返すわ、ボコボコにするわ、、、で中国人の狼藉ぶりは、驚きはしないが、酷いものだ。在中の日本人子女はさぞ不安な日々を過ごされていることであろう。
これに対する日本政府の対応は紳士的と申すべきか、泰然というべきか、のんきと言うべきか、小心と言うべきか、、、よくわからないが、とにかく静かである。世界的には反米のもっと過激なデモにかき消され、BBCもほとんど報道せず世界的注目度は低い。
何れ、中国当局が絡んでいることは間違いない。ジャスミン革命を訴えるデモが行われたときと比べれば政府の対応がどれだけ違うかは明白。チベット人のデモなら即大量の部隊が押し掛け、催涙弾どころか実弾も発射され、死人が出ても当たり前。デモ参加者は容赦なく逮捕される。中国では基本的に自由なデモなどあり得ない。あるのは今回のような何かの意図を持たされた大衆利用デモだけだ。このまま、政府コントロール下のデモで終わるかも知れないが、万が一これが方向を変え政府に向かえば本物だ。
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前座の積もりが長くなってしまった。最初にも書いたが私は中国語もできず所謂チャイナウォチャーではないのでもっと専門的な分析は専門家の意見を参考にしてほしい。このデモの情報でお勧めのツイッターは@livein_china @kinbricksnow @kaokaokaokao等。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)