チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2012年9月13日

中国が亡命チベット人を対象にした事務所を新設

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令計画中央統一戦線工作部新主任令計画(令計画は人の名前)

10日付けの中国政府系ネットGlobal Times(環球時報)は香港の明報新聞の記事を引用しながら、中央統一戦線工作部の指導の下、今月中に海外に住むチベット人を対象にした事務所を新設することを明らかにした*。
(なぜ、直接の発表ではなく、香港の新聞を引用した形の発表なのかはなぞ)

既に中国の他の各州や自治区は海外に住む地元中国人の世話をする事務所があるのに、チベット自治区はそのような事務所を設けていなかったので、チベット自治区が主体となり、そのような連絡と福祉を主な業務とする事務所を新設するのだという。

記事の中では中央民族大学の民族学教授Xiong Kunxinの話を引用し「そのような組織は海外のチベット人を助け、統一戦線の仕事に役立つであろう」という。

また、Xiong は「過去、若いチベット人がダライ・ラマに会えるという期待の下に中国を離れても、実際には彼に会う事もできず、苦しい状況に陥るということがあった。そのようなチベット人は再び中国に帰りたいと思いながらも、金が無かったり、帰れば逮捕されるのではないかと心配している。もしも、新しい事務所が彼らの親戚と連絡を取り、帰国を支援することができれば、このような問題を解決できるであろう」と言う。

明報によれば、2009年を境に中国は海外にいるチベット人たちへの見方を変え始めたという。そして、チベットの新年に外国にいるチベット人をパーティーに招待し愛国的教育を施し始めているという。

「政府のこの新政策は必ず海外のチベット人を導き、影響を与えることができる。帰国したチベット人たちは、再び外国に言った時、自らの経験を周りのチベット人たちに話し、それを聞いたチベット人たちがさらに帰国するであろう」と。

実際、インドに亡命した後、再びチベットに帰ったチベット人が期間の差はあれ拘留され、厳しい尋問を受けたという話は幾らでもある。今年カーラチャクラ法要に参加した数千人が帰国後拘留され、長期間再教育を受けさせられた。最近では帰ったチベット人をネパールに追い返すという事も起きている。一方でそのようなことをやりながら、「どうぞ帰ってきてくれ、手助けしよう」と言われても、それを真に受けてその事務所に行くチベット人がいるであろうか。結局、難民社会の情報収集が目的としか思えない。

また、教授が言う「ダライ・ラマに会えず、生活に苦しむ」という人がいるのか?国境を越えた後ネパールの一時収容所に収容されたならば、その人たちは必ずダライ・ラマ法王に会う事ができる。スパイ等と疑われた人以外は例外なく謁見できる。また、生活に困れば、相談に行く場所もちゃんとある。

最近、中央統一戦線工作部の主任に令計画という胡錦濤の側近が就任した。もっともこの人事は党中央弁公庁主任からの降格と見なされ、次期政権下における胡錦濤の影響力低下の印と思われている。令計画の息子がファラーリに乗って事故を起こし、死亡したというもの関係している、とも噂される。それはさておき、令計画の発案による、チベット難民懐柔策の積もりなのかも知れない。もっとも、対象は元チベット自治区の住民だけであり、カム、アムドは含まれないと思われる。

http://www.globaltimes.cn/content/732077.shtml
参考:kinbricksnow【中国斜め読み】フェラーリと江沢民と令計画の挫折=バイオハザード5と尖閣(ujc)http://kinbricksnow.com/archives/51808511.html

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

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