チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2012年9月12日
アメリカの町に描かれたある壁画の撤去を中国政府が要求し拒否される
中国政府は外国の政府等が中国の人権問題等に対し発言すると、すぐに「内政干渉」するな、と反応する。しかし、逆にどこかの国がダライ・ラマ法王を招いたりすれば、強烈な圧力を加える。相手の国に内政干渉することは当たり前なのだ。これは政府に対するだけでなく、全く些細な個人的表現に対しても行われる。
最近、アメリカ、オレゴン州コーバリス市にある台湾系アメリカ人、林銘新さんが経営するレストランの正面の壁に「台湾独立」と「チベット人への人権侵害」をテーマとする壁画が描かれた。この幅3メートル、長さ30メートルに及ぶ壁画は台湾人画家趙宗宋氏とカナダ在住の台湾人画家卢月鉛氏が共同で製作した。
そこには、台湾独立を訴える文面と共に、タルチョの下で中国の武装警官が抗議するチベット僧を殴り倒すシーンと焼身抗議を行うチベット人の姿が描かれている。
地元のガゼッテタイムス*によれば、サンフランシスコの中国領事館が8月8日付けで、コーバリスの市長ジュリーマニング氏宛に「世界には1つの中国しかない。チベットも台湾も中国の一部である」として、「中国とオレゴン州は経済的、文化的に深い関係がある。この友好関係を壊さないために、所謂『チベット独立』とか『台湾独立』を称揚する活動を許さないでほしい」「地域の中国人の感情を著しく損ねる壁画を取り除く事に助力して頂きたい」という手紙を送った。
しかし、これに対し、市長はこの要求に遺憾の意を示し、「地方政府は芸術を管理する権力はない。米国憲法第一条にあるように、国は言論の自由を保障しており、これには芸術表現の自由も含まれる」と返信した。さらに、しつこく、2人の中国領事館の職員が市長を訪問したが、結局目的は達せられなかった。
壁画を描かせた林さんは、「この画をめぐり中国当局から強い圧力を受けている。彼自身や家族が中国へ入国する際、拘留されるのではないかと心配している。しかし、壁画を撤去するつもりはまったくない」と地元メディアに語ったという。
*GAZETTE-TIMEShttp://m.gazettetimes.com/news/local/mural-draws-fire-from-china/article_22529ace-f94a-11e1-bf2a-0019bb2963f4.html
その他参照
11日付けphayulhttp://www.phayul.com/news/article.aspx?id=32089&article=China+fails+to+remove+Tibet+mural
11日付けTibet Expresshttp://www.tibetexpress.net/bo/home/2010-02-04-05-38-19/9213-2012-09-12-05-50-07
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)