チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2012年8月23日
ディルでチベット語・文化を擁護した若者中心に1000人以上拘束される
今朝RFA放送を聞いていた。1人のチベット人が現地からRFAに電話し、ディルの状況を詳しく語っていた。それは20分ほども続いた。私はあまりに長いので、危ないんじゃないかと心配になった。RFAのアナウンサーは何度も「危険を顧みず、情報を伝えて下さったその勇気に感謝する」と言ってた。
もちろん、ほとんどの内地情報は電話で亡命側に伝えられるのだが、近親者や同郷人を通じて伝えられることがほとんどだ、RFAの電話番号は広く知られており、もちろん当局も知っている。直接RFAに電話することは、特に危険なことなのだ。だから多くの場合は短く要点を伝えるだけで切れてしまう事が多い。彼のは長かった。
彼の話をRFA英語版がまとめた記事が出ていたので、これを中心に紹介する。
http://www.rfa.org/english/news/tibet/detained-08222012154059.html
ディルで1000人以上拘束
ナクチュ県ディル(ビル、比如)はチベット自治区東部の山に囲まれた小さな町である。しかし、ここは2008年以降、自治区の中でもっとも抵抗運動が盛んな場所である。彼によれば、今年3月デモが発生した後、この小さな町に1万人以上の保安部隊が派遣され、これまでに1000人以上のチベット人が拘束されたという。そのターゲットは特別な政治活動を行った者たちではなく、単にチベット語やチベットの文化を守る事に努力する若い知識人や教育者であるという。
「地区に中国の部隊が出動した後、1000人以上のチベット人が拘束されたり、監獄に送られたり、行方不明になった」
「若い教育を受けたチベット人や比較的裕福な家庭の子供たちが、特に狙われ、拘束された」
ディルではこれまでに一般人によるデモだけでなく中学生や小学生のデモも行われている。最近では当局の厳しい愛国再教育を嫌って多くの僧院や尼僧院から僧侶、尼僧が逃げ出し、空っぽになる所も多いと報告されている。
「2009年からディルの若者たちは、チベット文化の重要性について討論するようになった。他のグループはチベット語を話し、書くという運動を始めた。彼らは日常会話や電話でチベット語を話すようになった。中国語よりチベット語が重要だと考え始めたのだ」
ラカル(白い水曜日)
「また、他のグループは『白いダイエット協会』と自分たちを呼び、肉製品をさけることを呼び掛けた。彼らは毎月の仏教の聖なる日に肉を食べないこと、『ラカル(白い水曜日)』にヨーグルト等の白い食べ物を食することを呼びかけた」
「それらは大きな組織ではなかった、ただチベット文化や言語を守り、『白いダイエット』を訴えるグループだった。しかし、当局は彼らを拘束した。ある者はただ数時間拘束されただけだったり、ある者は数日間拘束されただけだ。しかし、多くが刑務所に送られ、そのまま行方不明になった者もいる」と報告する。
(彼は拘束された数人の名前を上げていた。学校の教師が多かった)
コロンビア大学ロバート・バーネット教授のコメント
「ここ数年、チベット人たちの間にチベット語とチベット文化を讃え、菜食主義を勧めようとする動きが起っている。しかし、一般にこれらの動きには当局から政治的と思われないような注意が払われる」
「政治的と見なされない限り、当局が単にチベット語や文化を奨励したと言うだけで彼らを拘束することは稀であろう。しかし、もしも『ラカル』という言葉を使ったならば、これは政治的と見なされ拘束の対象となる危険が高い。これは、(内地で始まった運動ではあるが)外地では政治的抵抗運動として広く知られるようになっているからだ」と。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)