チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2012年8月15日
またしてもチベットの人気歌手が拘束され行方不明に
チベット自治区ディル(འབྲི་རུ་རྫོང་)出身の歌手チョクセル(མཆོག་གསལ་)は恐れることなく、ダライ・ラマ法王やセンゲ首相を讃える歌を幾つも発表し続けていた。その結果、当局に目を付けられ、ラサとディルで指名手配され、追われる身となっていた。故郷に帰る事ができず、成都や西寧に身を隠し続けていた。ついに7月29日、西寧のインターネットカフェにいるところに警官が押し入り、連行された。その後、家族が行方を探し続けているというが、いまだに居所は不明のままだ。
彼はこれまでに4枚のアルバムを発表している。2008~9年に発表された最初のアルバムは「赤い頬したチベット人の夢༼ གདོང་དམར་བོད་པའི་རྨི་ལམ༽」と題され、ダライ・ラマ法王を讃え、チベット人のプライドについて歌い上げていた。「兄弟の契り༼ སྤུན་ཟླའི་འོས་འགན༽ 」と題された2番目のアルバムでもインドに居られるダライ・ラマ法王を偲ぶという歌が中心であった。3番目のアルバムは「兄弟愛༼ སྤུན་ཟླའི་བརྩེ་སེམས༽ 」、4番目は「雪の子༼གངས་ཕྲུག ༽ 」。
「チベットの人たちは彼がダライ・ラマ法王やチベット人についての歌を歌うから好きなのだ。そして、中国当局は彼を監視し始めた。当局は彼がコンサートに出場することを禁止し、ラサとディルの店から彼のアルバムを没収した」と彼の従兄弟は話す。
さらに「チベットの正月にチョクセルがラサのアルバム販売の店に新しいアルバムについて問い合わせる電話を入れた。すると、店のオーナーはパニクった声で『二度と電話しないでくれ』と言ったそうだ」と従兄弟。
6月には彼の4番目のアルバムである「雪の子」のDVDを上映していたディルのレストランに警官が押し入り、上映を中断させ、オーナーに罰金を科した。チョクセルは拘束される直前、新たな「雪の意識༼ཁ་བའི་རྣམ་ཤེས༽」というアルバムを他の歌手たちと共にリリースする準備をしていたところだった。
参照:14日付RFA英語版http://www.rfa.org/english/news/tibet/singer-08142012174240.html
13日付Tibet Timesチベット語版http://www.tibettimes.net/news.php?showfooter=1&id=6439
ダライ・ラマ法王を讃え偲ぶチョクセルの歌「悲しみ」
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)