チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2012年8月5日
チベット人選手が初めてオリンピックに 金か!?
女子20キロ競歩に出場するチュヤン・キ(ཆོས་དབྱངས་སྐྱིད་ 中国名:切阳什姐 Shenjie Qieyang)は21歳。アムド、ツォゴン地区ダシ・ゾン(མཚོ་སྔོན་ཞིང་ཆེན་མཚོ་བྱང་ཁུལ་མདའ་བཞི་རྫོང་ 青海省海北チベット族自治州海晏县甘子河乡)出身。遊牧民家庭の出身であり、幼少よりスポーツが大好きだったという。16歳のとき青海省のスポーツ専門学校に入学し、2008年から競歩を専門としている。中国内や国際大会に出場し、順調に記録を伸ばしている。今年3月30日に行われた国内オリンピック選抜競技会において1時間27分04秒を記録し代表に選ばれている。中国では彼女の記録をわずか3秒上回るXiuzhi LUという選手も出場する。
これを揶揄するチベット好きがオリンピック情報サイトに手を加えたと思われるクリップをFB等に載せていた(左)。
彼女の所属を示す国旗がチベットのそれになっている。Xiuzhi Lu の方の国旗は何だかよくわからない。ひょっとすると彼女も漢人では無いのかも知れない?コメントには「チベット人選手が11日に行われる女子20キロ競歩に出場する。占領された国としてチベットは自国の国旗の下に出場できず、名前も中国名になっている。選手にとって中国のために戦うのは道徳的に如何なものか?オリンピクサイトはかくあるべきだというものを示す」とある。
もっとも、この辺はあまり彼女をチベット人として注目させ、政治的意図があると見なされると中国当局もへそ曲げて、将来のチベット人選手選考に影響しなければいいがなんて思ってしまう。と言いながら、こんなブログも書いてたりするわけだが。
BBCも彼女にインタビューしていた。彼女は「プレッシャーを感じるが、チベット人(族)として初めて出場できたので、頑張りたいと思う」と言ってた。
この種目の現在の世界タイムランキングを見ると彼女は第7位である。>http://khoga.exblog.jp/17604998/ この種目はロシアと中国が上位を独占しているようである。昨日行われた男子20キロ競歩でも中国選手が1、3、4位を独占していた。2位にグァテマラの選手が入ったが、これはこの国始まって以来のオリンピックメダルだったという。3位を争っていたロシアの選手がゴール前で力尽き苦しそうに倒れ込むのを見た。この競技がどれほど苦しい競技かというのを垣間みた気がした。
コーチもチュヤン・キについて「彼女は苦しみに耐えることができる。酸素の薄い環境で育ったことで優れた心肺機能を具えている。特に彼女の心理的素質が良いことがこのような大きな大会に勝利する要因となるであろう」とコメントしている。http://china.dwnews.com/news/2012-07-31/58793892.html
忍耐力があり、心肺機能に優れ、心やさしい、というこの素質はチベット人一般に言えることと思う。機会さえ与えられれば、チベット人はオリンピックでももっともっといろんな種目で活躍できそうだ。チベット人が将来的に得意とする種目を上げれば、忍耐力、心肺能力、足腰の強さから>マラソン、競歩。重い石を担ぎ上げる競技は昔からあるので>重量挙げ、格闘もできるので>レスリングに柔道。もちろん馬を扱うことは得意なので>馬術。目がいいので>アーチェリーと射撃などなど。いろいろ夢は膨らむというわけだ。
もう1人、注目に値するチベット人選手にシロック・ドルマがいる。コンボ、ニンティ出身の女子レスリングの選手だ。67キロ級では中国一で世界選手権でも勝っている。だが、オリンピックではこの67キロ級がないというので今回は出場できてないという。
彼女が出場する女子20キロ競歩は11日ロンドン時間17:00からだ。日本時間では翌日午前1時から。チベット好きの方は是非応援してほしい。今年の世界ランキングは7位であるが、タイム差はごくわずか、十分メダルを狙える力がある。もちろん、彼女がメダルをとってもチベットの国旗は上がらず中国国旗が上がるわけだが、全てのチベット人は間違いなく「チベット人が勝った!うれしい!」と思うはずだ。彼女を含めチベット人の心の中にはチベットの国旗が上り、チベットの国歌が響くに違いない。
その他参照:チベット語サイトhttp://www.qhtb.cn/news/social/2012-04-09/9336.html
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)