チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2012年7月25日
チベットは一級の戦利品
鉱山開発に反対した住民が逮捕されるところ。2010年6月5日、シガツェ地区ナムリン県。
「チベットは中国の核心的利益」という言葉を中国政府は何度も繰り返す。これは「絶対誰にも手渡すものか」という強い領土占有の意志を表すための言葉だが、もっと端的に「金のなる木なんだ、手渡すものか」という表現でもある。実際、最近のうなぎ上りの観光収入もそうだが、何よりも次々と膨大な地下鉱脈が発見されているからだ。資源に飢える中国に取ってチベットはまさに「宝の山」なのだ。青海鉄道に何千億のも金を掛け、インフラ投資に膨大な金をつぎ込んで、これをチベット人の生活改善のためとか宣伝してるが、第一義的には大きな見返りを見越しての軍事的、経済的投資なのだ。
もっとも、それだけならどこの国でもやっていることで、特に問題視されることではない。問題なのは、第一に中国はチベットを侵略し、武力で手にいれたこと。そして、今も元々の住民の生活や意志を無視して、強引に開発を進めていること。それを全てはチベット人の生活改善のためだと、ぬけぬけと偽善的発言を繰り返すという「嘘」にある。植民地搾取の典型である。
23日付RFAチベット語版(*1)でカム、チャムド地区とアムド、ツォロ地区における鉱山開発により、人畜に被害が広がっているというニュースが伝えられている。地元の人々は抗議したいが、当局の報復を恐れなかなか実行できないと訴える。2008年以降、チベット各地で鉱山開発に反対する抗議デモが頻発している。当局が平和的抗議を行うこのようなチベット人に対し発砲し、死傷者が出たという事件が、少なくとも5件報告されている。鉱山開発を行う事業主が民間であろう国であろう、バックには常に軍部がいる。邪魔をするものは容赦なく撃ち殺しても平気なのだ。
チベット人は仏教伝達以前からアミニズムの傾向が強く、山や川を聖なるものとして畏敬をもって大切に守って来た。そのようなチベット人にとって、聖山と崇める山等に大きな穴を開けられることは堪え難いことなのだ。もちろん、実際に鉱山開発に伴う毒害を被っている地区も多い。
23日付けで「Tibetan Plateau」というブログ(*2)に、最新のチベット鉱山開発に関する詳細データが掲載されていた。現在分かっているだけでチベットには192種類の鉱物があるという。ブログには147カ所の鉱山或は鉱脈の位置が記された地図が添付されている。
以下その石油を含む鉱山の位置を示す最新地図(クリック拡大):
カムやウツァンには銅鉱山が多く、アムドには金、北のチャイダム盆地には石油と天然ガスが多いことが分かる。チャムドの南にはウランやレアアースの鉱脈があることも分かる。
さらに規模や正確な位置が分かる詳しいデータベース/リストは:
鉱山>https://docs.google.com/file/d/0B63eaz4EemWPTzdCVl9mT2FMSzQ/edit?pli=1
塩湖>https://docs.google.com/file/d/0B63eaz4EemWPNXRJMGVUeVdmeUE/edit?pli=1
石油>https://docs.google.com/file/d/0B63eaz4EemWPSDdScXlQeDFZUlk/edit?pli=1
その他未確認鉱物鉱山>https://docs.google.com/file/d/0B63eaz4EemWPVTlva1l6akMzcFk/edit?pli=1
*1
カム、チャムドhttp://www.rfa.org/tibetan/sargyur/chabdo-tibet-07232012141645.html
*2http://tibetanplateau.blogspot.ca/2012/07/best-data-on-tibets-mineral-and.html
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当ブログでは2008年の終わりにチベットへの投資に関する中国側の記事と、これに対する反論となっているオーストラリア人の「チベットは一級の戦利品」と題されたコラムを翻訳紹介している。
以下、これを再掲する。
<中国の対チベット投資が過去最高に、新華社>
2008年12月29日 01:02 発信地:北京/中国
http://www.afpbb.com/article/economy/2553002/3638186【12月29日 AFP】中国国営の新華社(Xinhua)通信は28日、3月に発生した騒乱で経済に深刻な影響を受けたチベット(Tibet)自治区に対する中国の今年の投資額が過去最高の160億元(約2100億円)に上ったと伝えた。
新華社がチベット発展改革委員会の統計を引用して報じたところによると、一連の騒乱の影響で2008年上半期のチベットの工業経済成長率は11%、固定資産投資は10.3%、それぞれ前年同期比で減少した。チベット経済下支えのため中国政府は7月、観光やインフラ(社会基盤)整備などを対象にした特別助成・奨励制度を実施する意向を示した。
チベット発展改革委員会は、投資額の増強は実を結び、自治区の総生産額は前年比10.1%増の392億元(約5200億円)となる見通しだと述べた。チベットを抑圧しているとの非難に対し、中国政府は2008年のチベットへの投資額は1951年以来最も多かったとして反論している。
今年3月14日に自治州の中心都市ラサ(Lhasa)で騒乱が発生し緊張が頂点に達した。騒ぎは同国西部のチベット人居住区に飛び火した。
一連の事態を受け、中国政府は6月末までチベットへの外国人観光客の立ち入りを禁止した。この影響で、今年1月から6月までにチベットを訪れた旅行者は前年同期比で110万人も少ない34万人にとどまった。(c)AFP
<チベットの隠された真実>
出典:
http://woodsmoke.wordpress.com/2008/08/22/how-china-is-plundering-the-natural-resources-of-tibet/
には、資源の話だけでなく、核施設、ミサイル基地などについての報告もある。
Australi.to News[Monday, December 29, 2008 15:14]
by Partha Gangopadhyay
チベットは一級の戦利品
アメリカのエリート達はそれを知っていた。中国人もそのことを知っていた。
封建制であろう、プロレタリア独裁制であろう、(USやUKのごとくの)民主封建制であろう、そこに住む人々に関わる政体のことなど誰も本気に気にしてなどいない。チベットは素晴らしい戦利品だったのだ。今も一級の戦利品であり続ける。中国がそこに居続けている、25万MWeの電力を生むことができるが故に。
私は先頃、中国のヒマラヤ搾取計画に関する詳細な地図を含む、エネルギィー関連研究をまとめた。他の資源としては:
中国の土地・資源省はチベット全土に渡る記録的な新たな資源発見について報告した。この発見は1999年から4、400万US$の予算で始められた、秘密の7年計画の調査による成果である。千人を超える調査員は24のグループに分かれ青海・チベット高原の至る所に散り、最終的にチベット全土の地質学地図を完成したのだ。
この調査により、銅、鉄、鉛、亜鉛、ウランその他の鉱物を含む、1,280億US$(約14兆円)相当の大きな16ヵ所の新しい鉱床を発見した。しかし、これらの発見はこれまでに判明している126種の鉱物、例えば世界的な埋蔵量を誇るリチウム、クロマイト、銅、ボラックス、鉄に上乗せさせられたにすぎない。中国の地質調査局局長のメン・シアンライは嘗て一度<資源欠乏が中国経済の急所だ>と発言したことがある。チベットにおけるこの新しい発見は<中国が直面する資源問題を軽減する>ことは確実である。
チベットの銅の埋蔵量は4千万トンに昇り、中国の鉛と亜鉛の総埋蔵量4千万トンの3分の1、そして10億トンを超える良質な鉄鉱石が眠る。
今回の新発見の中でも注目に値するのは、ニクンと呼ばれる鉱脈だけでも5億トンを有するという、上質鉄鉱石の供給確保が挙げられよう。これだけでも中国の鉄鉱石輸入の20%削減を可能にする。新しい銅鉱脈の発見の方も大きい。チベットの環境保護の視点からは重要な地域である、ヤルツァンポ渓谷にそって400kmの鉱脈が発見された。そこにあるユロンと呼ばれる鉱山は、国営新華社によれば、すでに中国第二位の埋蔵量と言われ、1,800万トンを誇り、増え続ける電力、電線需要を満たすことを可能にするという。中国は今まで銅鉱石を主にチリから輸入していたが、これで世界第7位、世界の銅の5~6%の埋蔵量を持つことになった。近い将来チベットから中国が「絞り出すことのできる<富>のために」と言う方が、中国がチベットに注ぎ込んでいるという補助金に対し、中国が「チベットの近代化を進めるために」と空疎な宣伝説明をするより余程すぐれた説明になるであろう。
事実、中国政府の公式ウェブ上に「かつて静寂に包まれていたチベットの北方地域は俄かに活気付き、興奮さえそそる場所になっている。政府の西部開発計画に応え多くの国内企業が進出した。北チベットには28種類の鉱物を含む200の鉱山があり、石油と温泉が豊富なのだから」と書かれている。
中国国営星石油公司と中国国営石油・天然ガス開発公司はルンポラ盆地で初めての油田を掘り当てた。推定埋蔵量300万トンと算定される。この油田は毎年100万トンの原油を産出するアムド油田群に加えられる。さらに中国はナクに2か所の金鉱山を開いた。ラサには宝石加工プラントを建設した。ナク県の役人ソナム・ドルジェは「北チベットの金、石油、アンチモン等資源開発のために内外資本の投資を歓迎する」と語っている。
これはまだまだチベットへのインフラ投資が必要であることを示している。その豊かな地下資源以外にもチベットは世界一の経済大国を目指す中国の要となる資源をたくさん有するのだ。チベットからこれまでに運び出された木材の価値一つをとっても、それは優にこれまで中国がチベットのインフラ整備に使った金を上回る。1949年チベットの原生林面積は221,800sqkmであった。1985年にはおよそ半分の134.000sqkmに減少した。大部分の森林はチベット東南部の低地帯にある、人の通わない、河沿いの急峻な斜面にある。森林のタイプとしては熱帯、亜熱帯山岳地針葉樹林帯。主な種類はトウヒ、モミ、松、カラ松、西洋ヒノキ、カバそれにカシである。チベットの森林は古く、平均樹齢は200年とされる。平均森林密度は272立方mt/ha。ウ・ツァン(中央チベット)にある針葉樹林地帯の密度は2,300立方mt/haに昇り針葉樹林帯として世界一である。
一たびこれら原生林に中国の手が入るや、チベットの山々は広範囲に渡り丸裸にされて行った。1985年までに総計24億4、200万立方メートル、1949年の森林量の40%、金額にして約6兆円が持ち去られた。自治区コンボ地区では、森林伐採が雇用の最大のものだ。そのうえ2万人以上の兵士や受刑者が木材の伐採、運搬に使われている。アムドのアバ地区には1949年には220万ヘクタールの森林が広がっていた。その材木量は3,4億立方メートルであった。1980年には117万ヘクタール、材木量は何と1,8億立方メートルに減少した。同様にチベット自治区のカンロ地域から1985年までに644万立方メートルの木材を持ち去った。
新しい道路が益々チベットの奥地へと伸びていく、搾取のために。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)