チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2012年7月6日

ウーセル・ブログ「ラサ――新しい人種隔離地区」

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7月1日付けウーセルさんブログ全訳。

原文:http://woeser.middle-way.net/2012/07/blog-post.html
翻訳:@yuntaitaiさん

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写真説明……新浪微博より。
1枚目=左は暫定居住証発行のため公安窓口に並ぶチベット人。右はラサ市公安局発行の暫定居住証。

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2枚目=旅行者が撮った成都双流空港の写真。チベット各地に向かう乗客は専用通路で検査を受ける必要がある。係員は「チベットは敏感な場所なんだ!」と話したという。

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3枚目=青海省ナンチェン県が発行した証明書類など。

◎ラサ――新しい人種隔離地区

 ラサはとうとう「人種隔離地区」になった。

 僧院と旧市街、ポタラ宮周辺に金属探知機のゲートが設置されたほか、空港や鉄道、公路でも予防措置が何重にも取られている。ラサの地元民ではない場合、何種類もの許可証と証明がなければ、「翼でも生えない限りラサには入れない」。これはラサを旅行した漢人作家の表現だ。

 全ては5月27日にアムドのチベット人2人がラサで焼身抗議したことと関わりがある。当局はラサ全体で大々的に「調査」を進めた。本籍地を甘粛、青海、四川、雲南の各省に置くチベット人だけでなく、チベット自治区のチャムドやナチュ、ロカ、シガツェ、ンガリ、ニンティなどの者についてもラサから追い出した。

 たとえラサ市内7県(ダムシュン、トゥールン・デチェン、チュシュル、メルド・グンカル、タクツェ、ニェモ、ルンドゥプ)のチベット人であっても、ラサに何年住んでいようと、家があろうと、仕事があろうと、子どもが学校に通っていようと、必ず速やかに暫定居住証を取らなければならない。もし取得できなければ本籍地に帰らなければいけない。7県は全くラサとはみなされていない。

 つまり、地元民以外がラサに行ったり住んだりする必要があれば、多くの手続きを済ませる必要がある。そうでなければ拘束され、本籍地に送り返される。一般人は五つの証明を全てそろえなければいけないという。ホテルや家主の証明書類のコピーと担保書▽居住地の居民委員会の証明▽本籍地の紹介状と無犯罪記録担保書▽身分証▽ラサ暫定居住証――の5種類だ。もし僧尼であれば僧尼証が必要だ。身分証と僧尼証を除けば、天に昇るよりも取得は難しい。

 しかしチベット人ではないのなら、ラサへ行くために飛行機や鉄道に乗ってもいいし、車や自転車で走ってもいいし、歩いていくことさえできる。もちろん中国以外からの観光客は既にやんわりとチベット入りを拒否されている。微博で「ラサ」と検索すれば、中国各地から喜び勇んでラサに遊びに来た観光客ばかりが引っかかる。漢人の自転車旅行者の後についてラサまで走って来た「励志犬」という小さな犬は一番の人気者だ。これを見たチベット人はつらそうに微博に書き込んだ。「ラサは君を歓迎するけど、チベット人を歓迎しないんだ」

 実際、バルコルと旧市街は既にすさまじい奇観にされてしまった。地震後の被災地が観光地にされ、変わり者の旅行者が見物したがるのと同じで、興味津々の漢人観光客はラサの奇観を眺めに来ている。すき間なく配置された軍警は奇観の主役の一人で、演じるのは虐殺者、または監獄の看守の役だ。ではチベット人はどうだろう?黙々と五体投地する信徒であれ、ジョカンにこもる僧侶であれ、何も語らずに沈黙する姿は隠れた抵抗であり、大きな悲哀でもある。

 別のチベット人は微博で家族の出来事について書いた。「19歳のチベット族のおいと漢族の同級生3人が青海-チベット間の自転車旅行に出かけた。ラサ手前のダムシュン県ブマ(烏瑪)郷まで来て、同級生は通過できたけど、おいはチベット族だという理由で止められた。県級以上の組織が証明書を発行しなければラサに入れないんだって。電話で問い合わせて初めて知ったよ。ラサで働いたり、商売をしたり、親戚を訪ねたりするチベット族はいろんな証明、担保が必要だって。それがなければ本籍地に送り返される。民族で区分するテロ防止措置って、人が少ないならやりやすいけど、人が多かったらどうなるの?」

 これは第二次世界大戦当時にナチスが進めたユダヤ人排斥政策を連想させる。実際、ラサはもうチベット人に「ナチス統治下のユダヤ人ゲットー」と皮肉られている。ナチスはかつてユダヤ人排斥を進め、中国共産党は今チベット人排斥(「排蔵」)を進めている。歴史の再演を受け、若いチベット人の微博の言葉が広まった。「胸にダビデの星をつけたユダヤ人が話していたようなものだ。『私たちは武器を持っておらず、世界はこんなに広いのに、私たちのため勇敢に立ち上がってくれる人はいない』」

 ラサ以外のチベット人は長い間、文化であれ、経済であれ、宗教であれ、ラサ社会で重要な役割を果たしてきた。アムドやカム、チャンタン、前蔵、後蔵(訳注1)の商人はラサで商売し、僧侶たちもラサを巡礼し、伝統に従って3大僧院で修行した。ラサは伝統的に各地のチベット人が中心地とみなし、全てのチベット人があこがれる聖地だったが、今では「排蔵」の地に変わってしまった。

 今のところ、ラサのこうした「排蔵」がどこまで進むのか想像のしようがない。だが一つ言えるのは、社会全体をとても疲弊させるだろうということだ。「排蔵」による巨大な欠員を誰が埋めるのか?ラサで焼身抗議が起きた3日後、中国各地の高校卒業生をチベットに引き込む当局の優遇政策を官製メディアが報道した。これが何を意味するのか、今さら言うまでもない。

 2012年6月20日 (RFAチベット語)

訳注1:中華民国の呼び名。中華民国は彼らの言うところの「西蔵(チベット)地方」を「前蔵」(首府ラサ)、「後蔵」(首府ツガツェ)、阿里(首府ガルトク, 噶大克)の3地域に区分した。

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

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