チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2012年6月12日

ウーセル・ブログ「実際のところ、嘘をつくには勇気が必要だ」

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4月17日付けウーセルさんのブログより。

原文:http://woeser.middle-way.net/2012/04/blog-post_17.html
翻訳:@yuntaitaiさん

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右がペマ・ティンレー、左がチャンパ・プンツォ。

◎実際のところ、嘘をつくには勇気が必要だ

 3月はチベットにとって敏感な時期だ。長い激動の日々が1959年3月10日から続いてきたからだ。3月は中国にとっても敏感な時期だ。「両会」と略されるでたらめな芝居が年に1度、この時期に開かれるからだ。専制の風刺をテーマにするある漫画家は、この政権の権力者に長々とした鼻を描いた。これが嘘つきの象徴であることは誰もが知っている。

politburoatwar031912-1024x723-1蟹農場・瘋蟹のイラスト。

 「少数民族」と「宗教団体」の代表はこのでたらめな大芝居に欠かせない登場人物で、全員が飾り物の役を任される。だから、テレビと新聞で見かける「少数民族」と「宗教団体」は色とりどりの姿で帝国の繁栄を引き立たせる。こうした風景は旧ソ連という多民族全体主義国家にも早くからあった。

 一方で、ある「少数民族」代表は有名ブランドのスーツにまぶしい革靴、上品な眼鏡という姿で、時代とともに前進する現代的な気風を見せる。しかし話す度に間違いを口にし、しかも低レベルの間違いであるため、笑いの種になってしまう。

 印象深かったのは、両会代表のチベット自治区人民代表大会主任チャンパ・プンツォとチベット自治区主席ペマ・ティンレーだ。中国では官製報道の色合いの比較的薄い「南方週末」が取材した。官製報道の色合いが強まっている香港のフェニックス・テレビもチャンパ・プンツォを取り上げた。

 ニュースが流れたのは全て両会閉会後だったが、両会の特色、つまり長々とした鼻を備えていた。私たちがよく知る西洋の童話は「長い鼻は嘘をつけばつくほど長くなる」という秘密を暴いている。拙い嘘つきはしばしば、嘘をつけばつくほどボロを出してしまう。

 たとえばチャンパ・プンツォは語る。「今年、自治区全体の5000以上の行政村に駐村工作チームを派遣しました。これは治安維持のためというわけではなく、彼らの経済発展を助けるのが目的です。駐村幹部は毎年交代し、3年以内に自治区全体で2万人以上の幹部が駐在するでしょう」

 「中央の指導者も『安定は一切を圧倒する』と話しています。現在、通常の治安維持と特別な治安維持が同時進行しています。いわゆる通常の治安維持は政法機関がそれぞれの職務に基づいて担当します。特別な治安維持とは、敏感な時期に街頭での取り締まりを含む特殊な規制を実施することです」

 たとえばペマ・ティンレーは語る。「年間数千万の観光客が訪れるからといって、九寨溝が破壊されましたか?2011年に120万平方キロのチベットを訪れたのは600万人だけです。チベットの環境が破壊されましたか?」

 これらの話は分析しないでおく。並べておけば、分かる人にはおのずと分かる。

 特にチャンパ・プンツォは語る。「(毛沢東から胡錦濤までの)国家指導者のポスターを(僧院や家庭に)贈るのはチベット特有のやり方で、歴史と伝統があります。シャカムニやツォンカパ大師、ソンツェン・ガンポ、文成公主など、チベット仏教の多くの菩薩は実際に生きていた人です。彼らは全員、崇拝の対象になっています。だから指導者ポスターを贈るのは私たちの土地では全くおかしくはなく、とても自然なことで、僧尼にも歓迎されています。ポスターを掲げるかどうかは完全に自由で、少しも無理強いしていません」

 この言葉はすぐ話題になった。これは全体主義の政治と宗教の関係を研究する典型的な例にできる。

 米国在住の漢人学者、何清漣は先日書いていた。「中国共産党の政治文化と宗教は生まれながらにして内在的な緊張関係を持っている」「共産党が政治的な暴力によって宗教問題を解決するのは適切ではない。これでは共産党と各宗教の関係を緊張させることしかできず、共産党の政治と宗教の間の内在的な緊張をもたらし、政府と各宗教集団の間の矛盾を日増しに激化させるだけだ。中国の政治と宗教の衝突は今後、中国社会のさまざまな矛盾がぶつかり合う重要なポイントになると予測していいだろう」

 実際のところ、嘘をつくには勇気が必要だ。必要なのは良心を売り渡す勇気だ。こうした勇気に対し、特別に詩をささげよう。

 「血走った目/定まらない視線/歯を見せた笑顔/目の笑っていない笑顔/銃を撃った手/舞台の下に隠した手/そう、それは2人のこと/一人はペマ・ティンレー/もう一人はチャンパ・プンツォ」

 2012年4月5日

(RFAチベット語)

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

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