チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2012年5月6日
高僧とその姪が焼身者を追悼中火事で焼死 人々は焼身したに違いないと噂
先月初め、カム、ミニャックで元ゾクチェン僧院僧院長である高僧と尼僧であるその姪が焼死した。土地の人々は状況から彼らが焼身を行ったのではないかと噂している。
先月6日午前10時半頃、カム、カンゼチベット族自治州タウ県ミニャック地区ミニャック・ラガン・ダクガル僧院僧院長であるトゥルク・アトゥップ(別名トゥプテン・ニェンダック・リンポチェ、45)と彼の姪である尼僧アツェ(23)が僧院近くの自宅で焼死した。
その数日前、トゥルク・アトゥックは家族に、「チベット歴の15日、満月の日に、これまでチベットのために焼身した人たちの追悼会を行うつもりだ。灯明を沢山灯すのでバターを沢山買うように」とことづけたという。
その日、トゥルク・アトゥックは電話で家族に、「今チベットのために焼身した人たちのために沢山のバター灯明を灯したところだ」と伝えた。
「そのすぐ後、彼の自宅は火に包まれた。間もなくトゥルクと彼の姪の焼死体が発見された」と住民は伝える。
彼は普段より、チベットの文化と宗教を守ることに熱心で、チベット人の団結を熱く語っていた、と住民は言う。一緒に亡くなった彼の姪もチベット問題に関心が強かった。
火事の後、すぐに大勢の警官が現場と僧院に集まった。この時、ダクガル僧院の僧侶と住民はこれが政治的焼身と見なされることで僧院閉鎖という危険もあり得ると判断し、警官たちに対し、「これは政治的抗議とは全く関係のない、事故だ」と説明し、警官もこれに納得し、部隊を僧院から引き揚げたという。
しかし、地元の多くのチベット人たちは「2人がチベットのために抗議の焼身を行ったに違いない」と思っているという。
トゥルク・アトゥックは幼少時、ミニャック・ダクガル僧院の転生僧と認められ、ラサのデブン・ロセリン学堂やンガバのキルティ僧院で学んだ。近年、ゾクチェン僧院の僧院長も歴任している。ゾクチェン僧院では最近大きな抗議デモが起っている。
参照:5月4日付けRFAチベット語版http://www.rfa.org/tibetan/sargyur/tulku-athup-passes-away-in-kham-tibet-05042012214039.html
同日付けRFA英語版http://www.rfa.org/english/news/tibet/fire-05042012163355.html
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)