チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2012年5月4日

カンゼでチベット人NGOに登録強制

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tumblr_m3ctflYedh1ru96pvo1_500アムド、マチュの競馬祭。いつの写真かは不詳。

本土のチベット人たちは全く足りていない、というか無視されている中国政府の教育、福祉分野等を補うために自分たちで学校を作ったり、保育園、養老院を経営し、環境保護団体等を組織したりして助け合って来た。それらはチベット人社会とチベット人としてのアイデンティティーを支える大事な機能を果たして来た。

当局はこれまでにも、チベット人によるこれらのいわゆるNGO(非営利非政府団体)が政治的活動の温床となるとして、その活動を邪魔し、潰そうとして来た。最近カムのカンゼ地区で当局は新しい通達を発表し、このチベット人NGOの活動を厳しく統制しようとしている。

5月2日付けTCHRD(チベット人権民主センター)リリースhttp://www.tchrd.org/index.php?option=com_content&view=article&id=218:chinese-government-notification-restricts-tibetan-ngos-in-kardze-&catid=70:2012-news&Itemid=162によれば、四川省カンゼチベット族自治州カンゼ県当局は4月26日付けのNGOに関する政府通達を27日付け「カンゼ日報」に掲載した。

これによれば、すべてのNGOは5月末日までに登録しなければならず、登録しない団体の活動は違法と見なし厳しく取り締まるとした。もちろん正式な登録を得るには当局の設けた基準をクリアーしなければならない。

この登録の目的の中には「社会の安定を維持するため」と書かれており、これは当局が恣意的にそれぞれの団体の性格や活動を勝手に解釈できることを意味する。勝手な解釈により、多くのNGOが違法組織とされる可能性が高い。

近年、カンゼ地区では多くのNGOが立ち上げられた。それらのNGOの多くは地域のチベット人たちが資金を出し合い、教育、宗教、環境、福祉分野の活動を行うためのものである。中には地域間の利害対立を話し合いにより解決するための組織も存在している。これらNGOのイニシャティブは地域社会を多いに利してきた。

しかし、中国当局はしばしば、これらチベット人NGOの活動を政治的と見なして来た。中国政府は大勢のチベット人が参加する活動は如何なるものであろうとも、それが非営利で地域の福祉向上を目的とするものであろうとも、これを政治的と見なすのだった。過去、このようなチベット人NGOが非合法と見なされ、強制的に閉鎖され、代表者たちが逮捕されたということが何度も報告されている。

過去3ヶ月間にTCHRDはカンゼ地区でこのようなNGOの強制閉鎖を3件報告している。4月2日には政府の許可を得て20年以上も活動してきたカドック地区の学校が強制閉鎖され、学校の校長と教師が逮捕された。この学校は修学機会のない遊牧民地区の子供たちに正しいチベット語の教育を与えることを主な目的にしていた。(詳細>http://www.tchrd.org/index.php?option=com_content&view=article&id=211:tibetan-school-forcibly-closed-teachers-arrested&catid=70:2012-news&Itemid=162)

4月14日には、役人と武装警官隊がカンゼの北部ダ・テルマ地区に現れ、村々の問題を解決するために組織「ダ地区友好(団結)協会」の閉鎖を命令し、代表者たちを逮捕した。この際これに抗議した村人に武装警官隊が襲いかかり多くのチベット人が重軽傷を負った。次の日2000人以上の村人が逮捕された人々の解放を求るデモを行っている。(詳細過去ブログ>http://blog.livedoor.jp/rftibet/archives/2012-04.html#20120422

2月半ばには「タウ環境保護協会」のメンバーが逮捕された。2011年に組織されたこの協会は乱暴な鉱山開発、森林伐採、聖なる河川で魚を獲ること、野生動物捕獲等に反対するための団体だった。(詳細http://www.tchrd.org/index.php?option=com_content&view=article&id=179:four-tibetan-environmental-activists-detained-in-tawu-&catid=70:2012-news&Itemid=162)

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

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