チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2012年5月17日

ウーセル・ブログ:「治安維持」のため廃止されるチベット語教育

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「愛国再教育キャンペーン」「遊牧民強制移住」と共に「漢語教育政策」は最近の焼身を始めとするチベットの抵抗運動の直接的原因となっている。ウーセルさんは4月4日のブログで「漢語教育政策」を取り上げている。この政策の目的は単に「様々な言語を話す舌を全て標準語の舌に切りそろえなければいけない」というだけでなく、チベット支配に関する「重大な政治的任務」とみなされていると語る。

原文:http://woeser.middle-way.net/2012/04/blog-post_04.html
翻訳:@yuntaitaiさん

写真説明(ウーセル):
1、2枚目……青海省と甘粛省のチベット人学校と民族学校が採用した中国語による教材。

3枚目……青海省黄南チベット族自治州ツェコ県で今年3月14日、数千人のチベット人中高生が街頭を練り歩き、チベット人の教育や諸権利を守るよう求めた。

899cf478jw1dqoma7cz02◎「治安維持」のため廃止されるチベット語教育

一昨年の10月19日のことを今も覚えている。アムドのレゴンで数千人の中高生や小学生がキャンパスを飛び出し、「チベット語の授業が必要だ」とチベット語で書かれた小さなボードを高く掲げた。続いて青海省から甘粛省までのアムド各地で、数え切れないほどの子供たちが母語を守る行動を起こした。北京の中央民族大学でも多くのチベット人学生が母語を守ろうと呼びかけた。

899cf478jw1dqnvtgngxij-1300人以上のチベット人教師が連名で中国共産党青海省委員会に文書を提出したことも覚えている。「中国語を基本とし、チベット語を補助とし、就学前にも中国語を教える」措置を実行せず、母語を主要言語とするチベット人教育を維持するようにという内容だ。引退したチベット人幹部と教育従事者の一部も統一戦線部と教育部などの上級部門に同様の意見を提出している。

後に青海省委書記が「双語教育」の改革について、現地の事情に即して順を追って進める必要があると表明し、人々を安心させたことも覚えている。善良なチベット人たちは書記の言葉を重いものと捉え、時間稼ぎの策略であるはずがないと考えた。

416879_2791292632430_1561803748_1959301_2067886692_nしかし、まだ1年半もたっていないのに、チベット語教育の頭上につるされた刀はやはり振り下ろされた。今年3月に新学期が始まった際、青海省と甘粛省のチベット人学校や民族学校の子供たちは、チベット語による専門科目の教材が中国語のテキストに突然変わったことを知った。つまり、農家や遊牧民の子供たちの学校教育は既にこれまでの双語教育から中国語教育へと変わってしまった。これはどんな結末をもたらすのだろうか?

13月3日、アムドのマチュ・チベット族中学の3年生、ツェリン・キがこの教育政策に抗議するために焼身した。3月14日以来、アムドのレゴン、ツェコ、カンツァ、カワスムドなどで数千人の中学生と師範学校生が街頭に繰り出し、「民族の平等を」「言語の平等を」「現地の自主性を」と声を上げた。

教師を務めるアムドのチベット人が微博で率直に語っている。

「たとえ母語による専門教科の教材を入れ替えるとしても、関連する調査研究や対応する教員を十分に準備しないといけない。教育は成果をあせって失敗してはいけないものだし、政治的な意志を運び出す分野でもない。生徒が中国語の単語やフレーズ、文体に慣れていないのに、新学期に突然、数学や物理、化学のたくさんの新しい単語を消化するのはとても難しい。時間と労力を費すよりも、慣れ親しんだ言葉で学ぶ方が効率的だ。これは教育の常識、ルールであって、民族意識とは関係がないし、更には大きなアイデンティティーといったものとも全く関係がない。どんな人や民族であっても母語の問題を政治化するべきではない。これは人類の文化で当たり前の伝統だし、生まれつきのものにイデオロギーをたくさん出し入れする必要はない。でも、ある部門や指導者は何度もこの問題をイデオロギー対立の次元で処理してきた。どうして母語のために毎年毎年、子供に散歩(デモの隠語)をさせるのか。安定維持は永遠に大局だし、安定させる対象はもちろん民心だ。でも、私たちは子供たちの心さえ安定させられないのに、チベットの安定維持事業にどう貢献できるんだ?」

実際のところ、一部の役人はこの理屈を理解していないわけではない。チベット語教育に屠殺刀を振りかざす目的は、当局が文化的な統一を実行するためだけではなく、様々な言語を話す舌を全て標準語の舌に切りそろえなければいけないという単純なことなのだ。青海省の教育改革に関する要綱から、これが既にチベット地域の未来に関わる「重大な政治的任務」とみなされているのが分かる。2008年のチベット人抗議から当局が学んだことの一つがここにはっきりと表れている。それはチベット語教育を根こそぎにして治安維持を図るということだ。

今日はどうであれ、数百年前にスペインの植民者がマヤ人の土地を占領し、マヤ語を完全に滅ぼした時代ではない。今日はどうであれ、数十年前の文化大革命がチベット全土でチベット語教育を消し去り、私のようなチベット人に母語を失わせた時代ではない。そんな今日、19歳の女子生徒ツェリン・キが母語を守るために命を燃やした。この炎が消えることはないだろう。

2012年3月20日(RFAチベット語放送)

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

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