チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2012年5月13日

ウーセル・ブログ「インドで仏教を学び、ラサで洗脳される」

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今年始めブッダガヤで行われたダライ・ラマ法王によるカーラチャクラ法要に参加した本土のチベット人たちが帰国後、大変な受難が待っていたという話はこのブログでも2度ほど報告した。
カーラチャクラ法要に参加した本土チベット人たちの受難http://blog.livedoor.jp/rftibet/archives/51727858.html
続・本土巡礼者たちを待ち構える受難http://blog.livedoor.jp/rftibet/archives/51730587.html

ウーセルさんは4月7日付けの「インドで仏教を学び、ラサで洗脳される」と題された「ほとぼりが冷めてから落とし前をつける」やり方で帰国後拘束され「教育」を受けさせられたお年寄りたちの話をブログに書かれている。

原文:http://woeser.middle-way.net/2012/04/blog-post_07.html
翻訳:@yuntaitaiさん

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383350_224327410980404_176229112456901_513400_713937116_n(ウーセルさんによる写真説明)写真1……尊者ダライ・ラマは今年1月1~10日、インドの仏教聖地ブッダガヤで第32回カーラチャクラ灌頂法会を執り行い、チベット本土から1万人以上のチベット人が参加した。チベット人写真家Tenzin Choejor写す。

_1写真2……漢族エリアの信者で、ツイッター仲間の@glxlzxがカーラチャクラに行った時に撮影した。彼による写真説明:「敬虔なお年寄りの巡礼者がバラナシの大きな塔の下で読経していた。3人のうち最も若いお年寄りでも70歳を超えている」。

002 (2)写真3……チベット人のツイッター仲間が隠し撮りした「学習班」。ラサ西部、デプン僧院近くの城関区教師訓練センターに開設されている。

「インドで仏教を学び、ラサで洗脳される」

ラサ各地に散らばる「学習班」。「学習班」で「教育」を受けた、または今「教育」を受けている多くのチベット人。彼らが「教育」されるのは、年始にインドのブッダガヤで尊者ダライ・ラマのカーラチャクラ灌頂法会に参加したからだということ。これらについて思う時、数人のチベット人の姿が目の前に浮かんでくる。彼らは皆、私がラサにいたころに出会った年長者で、全く普通の退職者や住民だ。一途に仏教を信じ、嫌というほど政治的な圧力を受けてきた信徒だ。

高齢というほどではないある男性は数年前、ずっと夢見ていた尊者との謁見を実現させるためだけに待遇の良い職場を離れた。彼の日記には、ポタラ宮を参拝した後の感想が書かれていた。「監視カメラは窓よりも多く、兵士は僧侶よりも多く、ネズミは菩薩よりも多かった」。彼はまだ「学習班」に閉じ込められており、帰宅できていない。

身体が弱く、病気がちなお年寄りは当初、ラサからブッダガヤにたどり着けるとは思っていなかった。長い道のりで激しく揺られる苦しさ、気候の違いによる体調不良に耐えられるのかどうかをとても心配していた。しかし、彼女の最大の望みは尊者の法音を耳にすることであり、もしその瞬間に死んだとしても見事な大往生だと思っていた。法会が終わった後、彼女は元気いっぱいの様子でラサに戻ったが、すぐ「学習班」に押し込められ、あっという間に病院送りになった。病床の彼女は家族に次のように話し、涙を流したという。「じきに死ぬ老人なんだから『洗脳』教育を受けなくてもいいでしょうって、『学習班』で泣いて頼むこともあったんだ」。

「学習班」は専制に特有の恐ろしい存在で、同じようなものに「洗脳班」「強制収容所」がある。「通常、強制収容所の様式をはっきりと定義するのは難しいが、共通点は収容された者の人権が無視され、損なわれることだ」とウィキペディアに書かれている通りだ。インドを巡礼した数千人のチベット人に当局が設けた「学習班」は、名目的には「法制教育」「愛国主義教育」や国家の宗教政策を学ぶ場とされる。だが、ある漢人弁護士は「全て法的根拠の無い拘束で、違法の限りを尽くしている」と指摘する。

チベット各地でのパスポート申請は元々とても難しいと誰もが知っている。チベット全土に及んだ2008年の抗議により、当局はパスポート発給を中止することまでした。この2年間、当局は例えばラサではお年寄りを大目に見て、60歳以上の申請者への発給に同意した。だから今回、ブッダガヤで法会に参加した本土のチベット人はお年寄りが多かった。しかし、苦労してパスポートを入手し、聖地にたどり着き、ようやく加持を受けて幸福なひとときを過ごした時、「ほとぼりが冷めてから落とし前をつける」目に遭うとは予想しなかった。

「学習班」は2月初めに開設され、ラサだけで少なくとも7、8カ所、軍キャンプや賓館、学校に置かれている。シガツェやツェタンなどにもある。警察に家から「学習班」へと次々送られるチベット人には80歳を超すお年寄りもいるし、中年や若者もいる。彼らの身分はさまざまで、退職幹部や都市生活者もいれば、郊外の農家や商人もいる。「学習」期間は二つに分けられており、チベット暦新年の後、65歳以上の非党員は「学習」を終えた。65歳以下の非党員と全党員はまだ「学習」を続ける必要がある。

実際、これほど多くのチベット人がインドで法会に参加したのは学習のためであり、それは精神的な喜びに満ちた仏教学習だった。そしてチベットに戻って「学習班」に閉じ込められるのは、名目上は学習であっても本人の意思に反しており、精神的な苦しみを伴う政治的洗脳だ。高齢と病気のおかげで「学習班」を離れられた数人のお年寄りは、1960年代のプロパガンダ映画「農奴」を見せられ、一人ひとり感想を報告させられたとびくびくしながら話した。「過去の苦しみと現在の幸福な暮らしを思う」ことと「党の恩義への感謝」がなければ合格できないという。今も「学習班」に残るチベット人たちは革命歌を歌い、革命舞踊を踊る練習をさせられている。3月28日、党がチベット人民に押し付けた「農奴解放記念日」に披露するためだ。

2012年3月15日

(RFAより)

ウーセルによる補足……RFAの報道( http://www.rfa.org/english/news/tibet/release-04032012191539.html )の通り、ラサでカーラチャクラ参加者に開かれていた「学習班」は4月3日、2カ月にわたる「洗脳」学習を終えた。「学習」させられていた若いチベット人は微博に書き込んだ。「指導者が書くよう求めた『学習参加で得たもの』は、殴られ、ののしられ、軍事の訓練をさせられ、革命歌を歌わされ、柴刈りと水くみをさせられ、『団結は幸せで、分裂は災いだ』と叫ばされたってことだ。でも確かに知識を得たし、訓練されたし、教訓を得たよ!」。また、2カ月続く第2回「学習班」が既に始まっている。カーラチャクラ後すぐにはラサへ戻らず、前回の「学習班」に参加しなかった残りのチベット人を対象にしている。

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

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