チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2012年4月12日
「月にダライ・ラマ法王のビジョンを見た」として逮捕
中国政府はダライ・ラマ法王を、子供のように「角の生えた悪魔」と形容してみたり、最近では「ヒットラーと同じだ」等と訳わかんない、笑われるだけの比喩を使ったりして、とにかく「分裂主義者」として繰り返し非難している。そして、ダライ・ラマ法王の写真を持ってるだけで逮捕の対象になるということも広く知られている。で、最近一人のチベット人が「月にダライ・ラマ法王のビジョンを見た」というだけで逮捕されたという話が伝わった。
10日付け、チベット亡命政府のオフィシャルサイトTibet Nethttp://tibet.net/2012/04/10/tibetan-arrested-for-sighting-his-holiness-reflection-in-moon/によれば、先月、ラサでプルブ・ナムギェルという20歳の若者が「月をじっと見つめているとダライ・ラマ法王が現れるんだ」と周りのチベット人に伝え、みんなで外に出て「ダライ・ラマ法王のビジョンをもとめ月を見つめた」ということを理由に逮捕され、行方不明となった。
プルブ・ナムギェルཕུར་བུ་རྣམ་རྒྱལ་はラサ近郊、ペンボ・フンドゥップの出身でラサのナンマ(ནང་མ་ཁང་チベットの歌や踊りのライブ等がショーとして行われるクラブのような飲み屋)で働いていた。そのナンマで3月中の月が明るいある夜、客の誰かが「おい、月に今ダライ・ラマ法王が現れているぞ」と言ったらしい。それを聞いてプルブ・ナムギェルは他の友人や客と一緒に外に出て、その法王ビジョンを求めてみんなで月を凝視し始めたという。
このことを聞きつけた警官がその場からプルブ・ナムギェルをどこかに連行した。そして、それ以来、今も彼は行方不明のままという。
以下、この件に関する専門家のコメントがRFA英語版http://www.rfa.org/english/news/tibet/vision-04102012152718.htmlに載っていた。
まず、コロンビア大学のロビー・バーネット教授は、この「ダライ・ラマ法王の写真が禁止されている」ということは本当には「法律的に何か書かれたものがあるわけでなく、だからどのように運用されるかについても最初から何の基準もないのだ」という。「このプルブ・ナムギェルの行為自体、常識的に見て、何らかの犯罪行為にあたるとは見なされない。人を集めたということだけで連行されたわけだ」と。
ICT副会長のプチュン・ツェリンは、プルブ・ナムギェルが法王のビジョンを求め逮捕されたという報告は「チベット人たちの信仰の力と、それが当局によりどのように見られているかを象徴している」と言い。「ダライ・ラマ法王のビジョンを月の中に見た、という話はこれが初めてではない。だが、そのような個人を当局が弾圧するというのは、まったくバカげた話だ」とコメントする。
また、ウーセルさんもこの件に対し、ツイッター上でコメントしている。(以下、@uralungtaさんが中文より訳して下さった)
1)「ラサの月夜に、絶対に月に向かい両手を合わせてある言葉を唱えてはならない。これは迷信とか迷信でないとかの問題ではなく、人民警察に身柄拘束されてしまうという現実の問題だ。罪名は「月にダライが出現するとみなすのは違法行為である」。。実際には、私たちにはみな、月はこんなふうに見えているのに。(と言って掲載された写真が左)
2)確か5、6年前の深夜。アムドの友人の1人から電話があり「すぐ月を見て! 月にクンドゥン*が現れている!」と。私は外に飛び出して見上げたけれど、ラサの夜空は厚い雲に覆われていた。電話に戻って、何も見えない、と答えるしかなかった。アムドにいる友人は「こっちは村中の全員が屋根に上がって月を望み、(法王のため)祈りをささげているよ。俺の幼い姪っ子はまだ不安気に『警察は月を撃ち落としちゃったりできないよね?』なんて言うんだよ」と話した。
*クンドゥン…チベット人のダライ・ラマ法王への尊称
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)