チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2012年4月7日
チベット人居住区に「厳打キャンペーン」発令
4月4日付けTCHRD(チベット民主人権センター)リリースhttp://www.tchrd.org/index.php?option=com_content&view=article&id=201:china-launches-strike-hard-campaign-in-tibetan-areas&catid=70:2012-news&Itemid=162 より。
甘粛省甘南チベット族自治州当局は、人々に対し、すべての「社会秩序」を乱し、「国家統一」を妨害する「違法行為」を公安(警察)に密告することを奨励する公示を発表した。
このチベット語と中国語で書かれた公示は、チベットにおいて政治的に敏感な月である3月の9日に発表された。この公示は甘南地区下にある8県すべての街路、壁や木の幹等に広く張り出された。
甘南州では中国政府に抗議するチベット人のデモが続いている。2008年以降、すべての県で反政府デモが起っている。中学生もデモを行っている。2008年以降、平和的デモに参加した者の内12人が、当局の発砲により死亡している。今年3月始めには、マチュ(瑪曲)で学生であるツェリン・キが焼身抗議を行い、死亡した。
他のチベット人居住区同様、甘南州においてもチベット人に対する当局による恣意的拘束や嫌がらせは日常的に行われている。
公示では「違法行為」に対する「厳打(striking hard)」が強調されている。この「厳打」というキャンペーンは中国で1983年に始まった。その対象はギャング、人身売買、窃盗、売春、ギャンブル、ドラッグ等の犯罪行為であった。しかし、チベットにおけるこのキャンペーンの目的は、政治的に敏感な期間に前もってチベット人が抗議活動に参加する事を防ぐというものである。人権団体の指摘によれば、特にこの期間中に多くの人権侵害が行われる傾向があるという。
チベット自治区ではこの「厳打キャンペーン」は毎年、「冬の厳打キャンペーン」「夏の厳打キャンペーン」というように、それぞれ毎年冬と夏の二ヶ月間行われることが恒例となっている。期間中、保安要員が増員され、個人の住宅、ホテル、バー、喫茶店等、住居施設や商業施設に対し奇襲捜査が行われる。多くの者たちが、ただ疑われただけで連行される。恣意的逮捕、拘束、尋問と拷問、仕事場を追われたり、僧院等の宗教施設から追い出されるということがこの期間中多発する。
密告に報賞金を払うというやり方は中国の伝統でもある。2008年の全面蜂起の後、ラサとカンゼ県当局はデモに参加した者の情報を当局に密告した者には2万元を与えると公表した。
以下、公示日本語訳(英語より):
甘南公安事務所は、甘南市民に対し、社会の安定を害する違法行為を行う者を告発することを奨励する。
甘南の社会的、政治的安定を維持し、「調和ある甘南」建設を早め推進し、経済的投資環境を整え、社会の安定を阻害する違法な犯罪行為を予防し、厳打するために、市民に対し、犯罪者をあぶり出し公安局に密告することを奨励する。
1.公安当局は、国家の安全を深刻に脅かし、社会の安定を阻害し、国家の統一を脅かす以下の行為に参加するいかなる者も厳打する。
1)民族間の調和を乱し、国家間に緊張を生み出し、民族分裂運動に参加し、国家の統一を破壊する。
2)言動、著作、絵画、映画その他により、民衆に対し国家の分裂を刺激、擁護する行為は社会の秩序と安定を脅かす。
3)非合法組織に参加または支援し、助言、資金を与える行為は国家の安全と社会の安定を脅かす。
4)ソシアル・ネットワーク・サイト上で噂を作り、広めたり、危険な情報をインターネットや電話で広めることは社会の安定を害する違法な行為である。
5)「打ち、破壊し、略奪し、放火する」等の暴力的行為を計画することは社会の秩序と、公共の安全を脅かす行為である。2.民衆はこのような犯罪行為を察知したときには、速やかに公安組織に通知すべきである。公安組織にこのような犯罪行為を通知した者の安全は保証され、個人情報も守られ、さらに最低5000元の報賞金が与えられる。
3.この指示は告知の日から有効となる。
報告先:0941-6696271,66962723
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)