チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2012年3月29日

ウーセル・ブログ「食い扶持が欲しくはないのか?」

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既に、昨日のブログに追記としてお知らせしたが、26日に抗議の焼身を行ったジャンペル・イシェ氏は28日午前7時半に病院で亡くなった。医師は最初から望みはないと話ていたという。
彼の遺体は明日ダラムサラに迎えられ、葬儀が行われる予定である。

今回はウーセルさんの今月23日付けブログを紹介する。
中国は何十年もの間、何の罪もない純真なチベット人たちの傷に塩を塗り付けるというやり方で、彼らをいじめ続けているという話である。

原文:http://woeser.middle-way.net/2012/03/blog-post_23.html
日本語訳:雲南太郎(@yuntaitai)さん。

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img721163_1<食い扶持が欲しくはないのか?>

2008年にチベット全土で勃発した抗議の鎮圧後、様々な「全員参加のテスト」が続いている。四川省のチベット・エリアでは全ての国家公職人員が特別な書類を書かなければならないということを昨年夏のカム旅行で知った。「1、家族に僧侶はいるか。2、家に仏壇はあるか。3、家にダライ・ラマの写真を飾っているか。4、出国した家族はいるか。5、パスポートを持っているか。6、あなたは二重信仰(一方で共産党を信じ、一方で仏教を信仰すること)か」といった内容だ。チベット人であれ漢人であれ答える必要があるが、実際はチベット人に狙いをつけている。

民主社会で暮らす台湾の友人は「なんてくだらない。記入してどうなるの?」と言った。私は「『イエス』と答えれば、好ましくない人物と判断されて嫌疑の対象になる。『ノー』なら入党の候補者になる」と答えた。「でも彼らの頭は本当にそんなに単純?」と友人はまた尋ねた。「実際、彼らはチベット人の心の内を知っていて、それでも一人ひとりに説明させるのは、チベット人を威嚇し辱めるのが目的でしょう」と説明しておいた。

私は「鼠年に雪獅子がほえる――2008年チベット事件の記録」という本の中で、08年当時にラサの企業や学校、居民委員会が「ダライ分裂集団批判」の集会を開き、人々が糾弾文書を書き、集会で読み上げる必要があったと書いた。チベット人の心を最も苦しめたのは、必ずダライ・ラマを名指しで批判しなければならなかったことだ。「ダライ」としか呼べず、「ラマ」と付け加えることはできなかった。そうしなければ、立場が定まっていないとされた。

ずいぶん前にチベット自治区文学芸術界連合会で働いていた時にも同じような「テスト」を経験し、次のように書いたことがある。

「全ての人は生まれながらにして自由」「全ての人は思想、良心及び宗教の自由に対する権利を有する」――これは半世紀前に全世界に向けて発表された世界人権宣言のうち、最も人々の心を震わせ、いたわった二つの言葉だ。だが、最も寝言のような二つの言葉でもある。特に今日のチベットで、この世に生きることと密接に関わる発言権を私たちが耳にする可能性があるのかどうか、全く分からない。私たちにこうした権利はない。最も頻繁に聞かされ、耳をつんざいて昼夜響き渡っているのは、不許可、不許可、不許可という言葉だ!

ある日の午後、私は兵営のような宿舎に閉じ込もり、壁や本棚をじっと眺めていた。そこには人生を共にしてきた品々があった。色あせたタンカ、精巧とは言えないランプ、人にもらったり自分で撮ったりしたチベット僧の写真。そしてあの小さな仏壇にきちんと供えられたシャカの塑像。頭頂部の青い肉髻は水のように静かでいて、憂鬱さをのぞかせていた。この憂鬱さは明らかにこの瞬間に現れたものだ。これらの全ては私にとって信仰の証であり、芸術的な美しさに満ちてもいた。しかし私はこの時、全てを下ろし、片付け、他人に気付かれない場所に隠す必要があった。なぜなら、およそ宗教に関わる全ての物品を自宅に置いてはならない、絶対に不許可だと彼らが文書で伝えてきたからだ。

明日、彼らは一軒ずつ徹底的に調査する。そう、「徹底調査」、まさにこの言葉だ!タンカとランプ、仏像、仏壇の全てをダンボール箱に詰め込んた時、思わず恥辱を覚えずにはいられなかった。 

実際、誰もがこうした徹底調査のテストを受けるのは中国共産党の慣習であり、おのずとまとまった手順がある。たとえば1989年の「6・4」後、各地で政治的な徹底調査が進められた。これは会議、態度表明、自己批判文書と自己評価文書の執筆、個人の档案(組織が保管する身上調書)の記入という過程で具体的に表れる。「法輪功」についても同じだ。法輪功の修行を肯定し、やめようとしない多くの者は公職を解かれ、労働改造に送られる。

カムのチベット人によれば、書類の記入のほかにも革命歌の唱和、祝祭日での感謝表明、「旧社会の苦しみを振り返り、新社会の幸せを思う」行事の展開など、当局は多くの活動を進めている。カメラに向かって大声で「ダライ集団に反対し、共産党に感謝します」と言わせることまであるという。最も屈辱的なのは、こうした活動の度に役人が「食い扶持が欲しくはないのか?」と問い詰めることだ。

2012年3月
(RFA特約評論)

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

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