チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2012年3月25日
国連前無期限ハンスト30日目に中止
ニューヨーク国連前で先月22日、チベットの正月に開始された無期限死のハンストは今月22日、ちょうど1ヶ月目に中止された。
ハンストを行っていた3人のチベット人は30日間、水のみで生き抜いた。ハンスト者の一人ドルジェ・ゲルポは医者に危険な状態と判断され19日、ニューヨーク警察により強制的に病院に運ばれた。しかし、彼は病院でハンストを続けていた。
この日、国連事務総長代理と国連人権高等弁務官代理が2人のハンスト者シンサ・リンポチェとイシェ・テンジンの下を訪れ、国連からの手紙を渡した。その手紙を読み、2人はハンストの中止を承諾。2人の国連職員から渡されたオレンジジュースを口にした。
手紙の中身についてはTYC議長が語るところによれば、「国連人権委員長のNavi Pillay女史が、チベット内地の状況を調査するための特別使節を任命した。中国にこれまで何度かチベット視察に関し打診した。女史自身が中国に行くことは決定している。日程を調整している段階である」という。
以下、国連の高官がハンスト者の下を訪れ、ハンストが中止された際の映像。
これを見ても分かるが、彼らはその場で手紙の内容については話合っていない。映像が飛んでいるのか、唐突に中止されジュースを飲んでいるように見える。もちろん、死を覚悟していた3人が無事にハンストを終えたことは喜ぶべき話であるが、その成果はTYC議長が「小さな勝利」と呼んでいるようにまことに些細な成果と言えよう。
実際、今後中国が国連のチベット視察団を受け入れるかどうかは分からない。ちょうど、先週もオーストラリアの在中国大使と議員団がチベット調査団を送りたいと中国政府に要請したが、中国政府はこれをきっぱりとはねつけ、内政干渉したと非難している。
元々、国連人権委員会が各国の人権状況を調べることや、必要があれば調査団を派遣することは、彼らの当たり前の仕事である。先のジュネーブで行われた国連人権会議の席上においても、いくつかの国がチベットの人権問題を取り上げ、中国を非難し、調査団派遣も要請している。
ハンスト者が命を掛けて要求していたことは調査団派遣だけではない。
彼らが要求していた5項目はとは;
1) チベットの危機的状況を調査するために、直ちに調査団を派遣すること。
2) 中国に対し事実上の戒厳令を撤廃するよう圧力をかけること。
3) 国際メディアのチベット入りを許可させること。
4) ゲンドゥン・チュキ・ニマ(11世パンチェン・ラマ)、トゥルク・テンジン・デレックを始めとする全ての政治犯を解放させること。
5) チベット内で行われている「愛国再教育」を止めさせること。
国連としてはまず(1)を実行した後、その調査に基づき、他の要求についても考慮しよう、というつもりであろう。実際(1)以外は今の中国政府の態度を見る限り、相当遠い望みのように思える。
また、実際に国連調査団がチベットに入ることができたとしても、彼らが本当の現実を見ることができるとは到底思えない。中国がメディアや調査団を受け入れるときには、必ず、周到な準備が行われ、飾り立てられた楽しい劇を見せられるのが落ちである。自由な調査行動は決して許されない。
30人ものチベット人が焼身し、3人が死を覚悟のつらいハンストを行って、手に入れることができる成果がこの国連の「調査への努力を約束する」という一言のみとは。それでも、彼らは涙を流してその手紙を持って来てくれた人に感謝の意を表す。
何とも、悲しい状況である。
参照:23日付phayulhttp://www.phayul.com/news/article.aspx?id=31122&article=Hunger+strikers+end+fast+on+30th+day+after+UN+promises+to+send+officials+to+Tibet
23日付RFAチベット語版http://www.rfa.org/tibetan/sargyur/tibetan-end-hunger-strike-outside-united-nations-headquarters-03232012214850.html
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)