チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2012年3月6日
ンガバで18歳の少年が焼身抗議死亡。3日焼身ツェリン・キの続報。2月8日焼身のリクジン・ドルジェ死亡。僧ロプサン・クンチョックの四肢切断
ダラムサラ・キルティ僧院リリースによれば、3月5日現地時間午後6時半頃、ンガバ州ンガバから東に70kmほど離れたチャ郷で、18歳のドルジェと呼ばれる少年が、中国政府への抗議のスローガンを叫びながら、焼身抗議を行い、政府庁舎の前で死亡した。
目撃者の話は以下;「チャ郷の街はずれにある橋の袂で、1人の若者が自らの体にガソリンをかけ火を点けた。炎に包まれながら中国政府に対する抗議のスローガンを叫び、郷の政府庁舎の前まで来てそこで崩れ落ち、その場で死亡した。周りにいたチベット人が火を消そうとしたができなかった。チベット人たちが彼の遺体を運ぼうとしているとき、保安部隊が駆けつけ遺体を無理やり奪い去った。彼を乗せた車はンガバ方面に向かった」
ドルジェはンガバ県チャ郷チャルワ村ガルキャ家の息子、父の名はチャチャ。
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これで3日連続して焼身抗議が行われ、3人ともその場で死亡した。これまでに確認されている焼身抗議者の数はドルジェを入れて26人。その内死亡が19人。
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ツェリン・キ
3日、マチュで焼身抗議死亡したツェリン・キの続報
昨夜ダラムサラでは3日と4日連続して焼身抗議を行い死亡した2人の女性ツェリン・キ(19)とリンチェン(32)を弔うためのヴィジルが行われた。
「勇者の塔」の前で行われた集会で現地と連絡を取ることができた、マチュ出身の元良心の政治犯ドルカ・キャップがツェリン・キの焼身についてさらに詳しい報告を行った。
以下が彼の話:
「ツェリン・キは午後3時頃、ガソリンを買ってマチュの野菜市場に向かった。市場の中にあるトイレの中でそのガソリンを浴びて、外に出て火を点けた。何か叫んでいたというが何と叫んだかははっきりしない。その野菜市場で野菜を売る者はほとんどが中国人だ。彼らは燃え上がるツェリン・キに向かって石を投げたという。また、警官を呼び、駆けつけた警官たちも燃え上がる彼女を殴り倒し、倒れた後も暴力を加えたという。彼女はその場で死亡したが、火傷により死亡したのか、暴力により死亡したのか分からないと話す目撃者もいた。
彼女の遺体が運び去られた後、すぐに市場は保安部隊により封鎖され、中にいた全員が夜9時ごろまで拘束された。そして、全員の携帯電話がチェックされ、中に焼身の写真がないか、誰かに連絡をとったかなどが調べられた。決して焼身のことを外部に漏らすな、と命令された。付近にあるネット屋もチェックされた。
また、彼女の出身校であるマチュ蔵族中学校にも大勢の保安部隊が押しかけ、学校は閉鎖された。中では愛国再教育が行われ、彼女を知る、友人やクラスメートなどはすべて尋問を受けた。
マチュの役人や警察は緊急会議を開き、「ツェリン・キの焼身の理由は恋愛関係のもつれ」ということにしようと決定された。
ツェリン・キは遊牧民家庭の出身、姉が1人いる。彼女の学校は2008年に大きなデモを行い、刑期を受けた生徒も出ている。2010年、漢語化に反対して行われたデモに彼女も参加している。最近回りの友人たちに「チベットでは大勢の人たちが焼身抗議を行っている。自分たちもこれに続くべきだ」と話していたという。遺書が残されていると聞いたが、まだその内容は伝わっていない」
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2月8日にンガバで焼身のリクジン・ドルジェが死亡
同じくダラムサラ・キルティ僧院リリースによれば、2月8日にンガバで焼身抗議を行い、その後当局により連れ去られ行方不明となっていた、リクジン・ドルジェ(19)が2月21日にバルカムの軍病院で死亡していたということが最近判明した。
「遺体は家族に引き渡されず、仏教的儀式もなく火葬され、家族には葬儀を行うなと命令した」という。
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2011年9月26日に焼身抗議を行った僧ロプサン・クンチョックの四肢が切断された
さらに同上のリリースによれば、去年9月26日、僧ロプサン・ケルサンとともに焼身抗議を行ったンガバ・キルティ僧院の僧ロプサン・クンチョックの「四肢はすべて切断され、食物も喉へのパイプを通じて摂っている状態」という。
家族の面会は拒否されたままという。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)