チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2012年2月20日
続くチベットの知識人逮捕
ウーセルさんは2008年以来、すでに50人を越えるチベットの作家、芸術家、知識人等が中国当局により拘束・逮捕されているという。報道の自由の擁護を訴える主要な国際NGOであるCPJ(The Committee to Protect Journalists ジャーナリスト保護委員会)は最近中国で現在懲役刑をうけて刑務所にいるジャーナリスト27人の名前を列挙したが、その内の10人はチベット人であった(詳しくは>http://www.tchrd.org/press/2011/pr20120213b.html)。
チベットの緊張が日増しに高まる中、最近再び2人の作家が拘束されたという報告が入っている。
<セルタで教師・作家ガンケ・ドゥパ・キャップ拘束>
2月15日の夜中11時頃、セルタ県にあるガンケ・ドゥパ・キャップ(གངས་སྐྱེས་སྒྲུབ་པ་སྐྱབས་33)の家に20人程の公安と秘密警察が押しかけ、彼を連れ去った。妻のワンチュック・ラマは、家に押し入り、家の中をむちゃくちゃにしながら捜査する警官たちに対し、「逮捕令状と家宅捜査令状はあるのか?あるなら見せてほしい」と要求した。警官たちはこれに対し、ただ「彼に話が聞きたいだけだ」と答えるだけで、なんの令状も示さなかったという。
ドゥパ・キャップはカンゼ師範学校を卒業した後、カンゼやセルタで教師をしながら、傍ら盛んに分筆活動を行い、著書も多数出版した。筆名はガンメタク(གངས་མེ་སྟག་)、チベットでは有名な作家という。主な著書は「今日の涙(དེ་རིང་གི་མིག་ཆུ། 今日伤泪)」「運命の呼びかけ(命运的呼唤)」「時代の苦しみ(世纪悲伤)」「歳月変色(岁月变色)」等。
彼には8歳になる娘と5歳の息子がいる。連行された後、今どこにいるのかは不明である。
参照:18日付けRFA英語版:http://p.tl/V0tp
18日付けTibet Netチベット語版:http://tibet.net/tibetan/2012/02/18/རྒྱ་གཞུང་གིས་བོད་ཀྱི་ར/
19日付けウーセル・ブログ:http://woeser.middle-way.net/
19日付け AP:http://p.tl/yM5R
<ナクチュ地区ディル県の作家ダワ・ドルジェ、ラサ空港で拘束>
ダワ・ドルジェ(ཟླ་བ་རྡོ་རྗེ་23)は成都でチベットの作家、文化人、歌手等を集めチベット文化に関する講演会とコンサートを開催した後、故郷に帰る途中2月3日、ラサ空港で拘束され、その後消息が途絶えた。
ダワ・ドルジェは西蔵大学に在学中に故郷ディル(འབྲི་རུ་རྫོང་)の知識人たちと共著で「道(伝統ལམ་བུ)」という著書を出版した。この本は人気となり現在第5版が出ていると言う。この本の中で彼は民主主義、人権、トゥルク(転生ラマ)のあり方、(チベットの)習慣などについて論じている。
卒業後、ナクチュ地区の政府法律関係研究者となったが、中国人責任者の仕事のやり方、チベット人への差別意識、賄賂横行、法律に従わないやり方等に我慢できず、去年5月仕事を辞めたという。
去年3月には地震被災地であるジェクンドを支援するために20万元以上の義援金を集めジェクンドの子供たちを助けるプロジェクトを始めたが、当局の妨害を受け続けていたという。
参照:18日付けTibet Times: http://p.tl/iMo3
18日付けRFA英語版:http://p.tl/V0tp
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)