チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2012年2月18日

続・本土巡礼者たちを待ち構える受難

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_DSC2093昨日、日本でも朝日やNHKが最近インドのブッダガヤで行われたカーラチャクラ法要に参加した人たちが、本土チベットに帰った後、拘束されているというニュースを流した。これはHRW(ヒューマン・ライツ・ウォッチ)がこの件を特に取り上げ中国当局を非難したからだ。

ロイター>朝日:「中国当局がチベット族数百人を拘束、過去30年で最大規模」 http://p.tl/340K
NHK:「チベット族の数百人が拘束」 http://p.tl/8AqE

まず、2つの記事の中で気になった点を指摘し、その後にRFA等が報じるこれに関連したもっと詳しい状況を報告する。

ロイター>朝日のニュースについてだが、これはHRWの言い方にも問題があって、
(1)表題にもなっている「過去30年で最大規模」については、正確には「単なる巡礼者を拘束するのは『過去30年間で最大規模』」とすべきところだ。なぜならば、2008年には5000人以上が拘束されているからだ。また、数百人というなら、去年ンガバでもあったし、今年カンゼ州でも起こっている。このような一時的拘束者以外でもTCHRDによれば現在の政治犯の数は800人以上だ。

(2)HRWはブッダガヤの法要に「約7000人のチベット続が参加することを許可」というが、正確には運営委員会の発表では「約9000人」。ま、これは大した事ではない。

(3)朝日は「東部のチベット族居住地域で起きた暴動が、チベット自治区の区都ラサにも拡大するのではないかとの不安を背景として変化した」とHRWの文章を引用翻訳している。
この原文は”However, that changed against a backdrop of unrest in the eastern Tibetan areas and apparent fears it might spread to Lhasa,”>http://p.tl/_Ph0。細かいようだが、「unrest」を「暴動」と訳すのは如何なものか?と思わずにはいられない。「不安定」「動揺」「緊張」ぐらいが原意を汲んだ日本語と思う。

(4)最後に「昨年3月以来、少なくとも15人が死亡したとみられる。」とある。確かに昨日17日にアムドで焼身した僧ダムチュ・サンポの死亡を入れて17日夜時点で判明した、死亡者は計15人になる。が、この記事が発表された時点ではダムチュの死亡は伝えられていないはず。ちょっとおかしい?

なお、私は「2月3日、セルタで3人焼身1人死亡の件」は未確認とする。これが確認されるまでは、焼身抗議者の内、死亡が確認されているのは今日時点で14人、焼身抗議者は昨日のダムチュで2009年以来22人目とする。

ついでに、一言付け加えれば、「チベット族」より「チベット人」の方が良かったが。

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_DSC2417カーラチャクラ法要に参加した本土の人たちは、あれからどうなったのか?

先の2月2日付けのブログ>http://p.tl/iDQHにおいて、参加巡礼者たちが国境やラサまでの検問で酷い目に遭い、様々な品物を取り上げられているということ、100人程の巡礼帰郷者がラサから電車に乗せられ、どこかへ連れさられたということをお伝えした。

その後も彼らの受難について様々な情報が伝えられている。
10日付RFA英語版http://p.tl/mfmFと17日付Tibet Express チベット語版http://p.tl/W-EUを中心に以下これをまとめて報告する。

上に紹介したHRWの報告ではラサの状況について「数百人が拘束されている」と言ってる。RFAによれば10日の時点で700~800人が拘束されているという。彼らは突然家に押し掛けて来た公安に連れ去られた後、拘置所に入れられるのではなく、いくつかのホテルに監禁され、家族との連絡を絶たれ、毎日様々な尋問と政治教育を受けさせられている。そして、そのホテル代と食費も払わされるという。中には病人や80歳代の老人もいるそうだ。この拘束は少なくとも3月中、長ければ5月初めまで続くと思われている。

ダラムサラの友人のお母さんも今回ブッダガヤで法要に参加した。「家族が待っているので帰りたくなくとも帰らない訳にはいかない。もう捕まるのを覚悟で帰る。年寄りを虐めて何が嬉しいかね。酷いもんだ」と言ってた。

ラサ以外のチベット自治区でも各地で今回の巡礼者が洗い出され、連行され拘束されている。地方では拘置所で拘留される場合が多いという。この場合、食料や寝具一切を家族が面倒みることになっているとのこと。

カムやアムド出身の人たちは今でもラサから列車でゴルムト方面に送られている。それでも、最近次第に故郷に帰れている人がいるという。だが、そのまま今も行方不明となっている人も多い。

ネパールから陸路で帰ると国境や途中の検問でほぼ必ず酷い目に遭い、拘束されると分り始めて、お金は掛かるが空路で帰った方が安全ではないかと成都や昆明経由でラサや西宁に入ろうとする巡礼者もいる。しかし、彼らも成都空港やラサ空港でごっそり拘束され連行されたというケースが多く報告されている。

また、今回の巡礼者の中には休暇をとって参加した政府職員も少なからずいた。彼らは今月の15日までに帰らない場合はクビにすると告げられた。

先にちゃんとパスポートを取り、巡礼ビザも取得してインドに来た人たちに対し、このような仕打ちを与えるというのが中国である。

全ての巡礼拘束者を足すならば2000人を越えていると私は思う。

なお、本土の中国人も1500人ほどカーラチャクラに参加していたが、彼らが拘束され政治教育を受けたという話はまだ聞かない。

一つには当局は今度のチベット正月や特に3月10日の蜂起記念日にラサで何か起こるのではないかと極度に警戒しているせいもあると思われる。ラサの人たちは、あまりに警戒が厳しく街中軍隊や武装警官隊だらけなので、買い物に出る事も怖くてできないと話している。

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

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