チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2012年2月7日
3人同時の焼身を受けカルマパが声明を発表 全訳
カルマパはセルタで3人が同時に焼身を行ったという報告を受け、6日付けで異例とも言える、強い口調の声明を発表している。その中で彼は中国当局の弾圧対応と法王誹謗を「誰のためにもならない」と批判し、北京当局が地方役人の「うわべを飾るだけのレポート」を信用せず、チベット人たちの「真の人間的苦境を認識すべき」と主張する。本土のチベット人に対しては「自分自身に忠実であれ。苦難を前に平静であれ。長期的視野を維持せよ。あなた方の命は人間として、チベット人として大きな価値を持っているということを常に忘れないように」と心からのアドバイスをする。
以下その声明を全訳したが、チベット原文を見る事ができず英語から訳した。
英語原文:http://kagyuoffice.org/#KarmapaBG5
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ギャワ・カルマパ17世ウゲン・ティンレー・ドルジェ の声明
2月6日 ブッダガヤ
東チベットで1日に3人のチベット人が焼身したという報告が先ほど入った。これは、先月4人のチベット人が焼身抗議を行い、人々が抗議デモの際、銃殺されたという報告に続くものだ。緊張が高まる時、中国当局は事態に憂慮を示し、その原因を理解しようする代わりに、更なる武力弾圧をもって応える。チベット人の死を伝えるニュースは常に私を非常に苦しめ、悲しみに突き落とす。一日に3人もとなればもうそれは耐え難い。このような犠牲が空しいものとならず、チベットの兄弟・姉妹を救済する政策変更に繋がることを私は祈る。
900年間続く伝統ある転生の系譜を継ぐカルマパという名を私は与えられた。この系譜はこれまで政治的活動を避けて来た。この伝統を敢えて変えようという意図はない。しかし、1人のチベット人として、同胞に対し大きな共感と愛情を持つ。彼らが苦しいの中にある時、沈黙し続けることに疑問を感じる。彼らの幸、不幸は私の最大の関心事である。
チベット人たちの抗議デモと焼身抗議は、深い、しかし十分認識されない不満の徴候である。もしも、チベット人たちに自分たちの意思にしたがった生活を送り、自らの言語、文化、宗教を守る偽りのない機会が与えられているならば、彼らがデモをしたり、焼身したりすることはあり得ないであろう。1959年以来、我々チベット人は想像を絶する損失を被った。そんな否定的状況の中においても我々は利を見つけた。多くの者たちがチベット人としてのアイデンティティーを再確認した。チベットの3地域(ウツァン、カム、アムド)の(同じチベット人としての)国民的連帯を再発見した。そして、ダライ・ラマ法王の人格の下に統一的リーダーとしての価値を見いだした。このような要素は我々の大いなる希望への基礎となる。
中国はチベットに物質的発展をもたらしたと言う。確かに私がそこにいたときも物質的な不自由はなかった。しかし、繁栄と発展はチベット人たちがもっとも価値あるものと見なすものではない。物質的充足は内的満足を伴わない限りほとんど意味がない。当局にとって、チベット人たちは常に疑惑の対象であり、力ずくで自らの良心に反した行動をさせられ、ダライ・ラマ法王を非難することを強要される。中国当局は常にダライ・ラマ法王を敵として描く。チベット・中国問題を平和的に対話により解決しようとする法王の度重なる努力を中国は拒絶する。彼らは全てのチベット人が抱くダライ・ラマ法王に対する心からの信頼と忠誠心を無視する。ダライ・ラマ法王が亡命された数十年後にチベットに生まれたチベット人たちも法王を、今生だけでなく来世に渡るガイドであり帰依所と見なしている。従って、常にダライ・ラマ法王を敵対的言葉で表現することは誰をも利することができない。実際、チベット人の信頼の核心を攻撃する事はチベット人の信頼を得ることを損ない、何の効果もなく、賢い方法とは言えない。
私は北京政府に対し、地方の役人たちが報告するうわべを飾るだけのレポートを信用せず、チベットのチベット人たちの真の人間的苦境を認識し、そこで起こっていることに全面的責任を負うことが、チベット人と中国政府の間の相互信頼を築く賢明な基礎となるのだと訴えたい。この問題を政治的敵対と見なさず、人間の基本的福祉の問題であると見なすことを求める。
このような困難な時期に、私は本土のチベット人に対し要請する:自分自身に忠実であれ。苦難を前に平静であれ。長期的視野を維持せよ。あなた方の命は人間として、チベット人として大きな価値を持っているということを常に忘れないように。
チベットの新年を前に、チベット人と中国の兄弟・姉妹、そしてインドや世界に散らばる友人、支援者全てが永続する幸せと真の平安を見いだすことができるよう祈りを捧げる。新年が、お互いと我々の共通の家であるこの地球への愛と尊敬に特徴付けられた調和の時代への幕開けとなりますように。
ウゲン・ティンレー・ドルジェ
17世ギャワ・カルマパ
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)