チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2012年1月26日
ダンゴ、セルタ事件に関する中国側の発表等
現在多数の負傷者が収容されていると言われるダンゴ僧院(Tibet Netより)
ダンゴやセルタからは情報は途切れたままだ。情報と交通を遮断する事自体、中国が公にはできない「何か」を行っている証拠と言えよう。中国当局も平和的デモに発砲する事は「良くない事」と知っているらしい。
今日は新しく出てきた写真や、この事件に関する中国当局の発表、亡命政府の声明、諸外国の反応等を簡単に紹介する。
次は中国のマイクロブログ微博に掲載されていたもの。四川省成都からダンゴ、セルタに向かう高速道路上。軍用トラックが列を組んで一斉にチベット方面に向かっているという。微博に(中国人が)「(正月に関わらず)今日は仕事だった。様々な種類の完全装備した多数の武装警官車両が成都から雅安(チベット方面)に向かって行くのを見た。チベットで何か起こったようだ」と。他のユーザーは「ダンゴで何で暴徒が?何を要求してるんだ?何の情報もない」と書く。
亡命側に伝わった情報はこれまでこのブログに紹介したが、中国側はこれをどのように伝えているのであろう。大体のところは日本の新聞各社が律儀に新華社電をそのまま報じて下さっているのでご存知の方も多いと思う。死者数については各社とも中国の発表通りにダンゴで1人、セルタで1人としている。
私は中国語を解せないが中国語堪能な@uralungtaさんが関連の新華社の記事を解説付きで日本語にして下さった。これを以下に:
[資料のための参考訳]※新華社1月24日配信
原文(新華網)http://p.tl/WPOB四川省炉霍県で群衆が集まり打ち壊す事件が発生
【新華網成都1月24日電】 1月23日午後2時ごろ、四川省甘孜州炉霍県で、群衆が集まり打ち壊す事件が発生した。事件は、あるならず者(不法分子)の『これから僧侶3人が焼身する。遺体は絶対に政府に処理させてはならない』というデマによって扇動され、100人を超えるチベット族の僧侶俗人群衆が町中心部に集まり、一部は刃物を持ち、当直の人民警察と武装警察に投石し、公安派出所を襲撃し、警察車両2台と消防車2台を破壊し、商店や銀行ATMを打ち壊した。
事件では公安警察官5人が負傷し、不法分子1人が死亡、4人が負傷。負傷者は既に病院に搬送され救命治療を受けている。公務執行により、集まった人たちはこの日19時ごろ解散した。現在、炉霍県中心部の秩序は既に回復し、正常を取り戻している。<備考>
・新華社の大元のサイトから持ってきて、ここが一番、どうでもいい見出しをつけている。転載した他のネットニュースは「四川炉霍县发生聚集打砸事件 不法分子1死4伤(四川ダンゴで群衆打ち壊し事件発生不法分子1人死亡4人負傷)」(アリババのヤフーニュース)「四川炉霍县发生聚集打砸事件致1人死亡(四川ダンゴの群衆打ち壊しで1人が死に至る)」(中新網)など。
・「なにか持っていた」ことにしたい(=弾圧して銃殺してもよい、という言い訳をしたい)「不法分子」の持ち物ディテールが、「刃物」にグレードアップ。
※この記事は「刃物」止まりですが、別のデモ鎮圧を報道した記事では「火炎瓶」「先に発砲」とまでグレードアップしております
・集まった人たちが何を訴えていたかなどものごとの原因や背景は書けないのに、「デマ」の内容だけやたら詳細。
※チベット側から伝えられる、前日数日間に出現したビラの内容「僧侶4人が焼身の覚悟を持っている。遺体は政府に渡さず弔ってほしい」「チベット人は団結すべきだ」「新年を祝う気持ちになれない」などの事実を、わざと歪曲して書いていると思われる。4人を3人に減らすとか、どうにも意味が不明だが。
・こんな短い記事でわざわざ「病院に運ばれ手当を受けている」と記述。=負傷者への人道的取り扱いをしていることをアピール。⇔チベット人側に伝えられた情報では、「診療拒否や逮捕を怖れて寺院内にとどまっている」とされる。この事実を否定したいためにわざわざ付け加えた作文とみられる。
・ 同上「正常を取り戻している」と記述。→わざわざこんなことを書くのは、実際には「正常な状態には戻っていない」ということと同じ。町に通じる道路は封鎖され、春雪休みの公務員や警察官がすべて呼び戻されたという微博のつぶやきあり。この他の記事もあるとして:
「一部の者は棍棒、石ころ、刃物、ガソリン瓶(=火炎瓶)などの武器を持ち(注:器械=武器の意)、城関(町なかの)派出所を襲撃した」「その派出所のある警察官は『ならず者どもは肌身離さず持っている火炎瓶や石ころを用いて警官を攻撃し、さらに我々に銃を向けて射撃し、けがの程度はさまざまだが14人の警察官が負傷するに至った』と話した」という記事になってます。銃は、現場にいたという警察官の話の中で(この警官や談話自体実在するか怪しいものですが)突然出現しております。
と紹介して下さった。
「ならず者ども(チベット人)は『火炎瓶』を肌身離さず持っている」は笑わせる。@uralungtaさん「ケロシンカイロ(白金カイロ)のことかしら?」とつっこみを入れられている。いつもながら、当局の作文はとんでもないしろものである。
ダンゴ僧院(Tibet Netより)
この「チベット人暴徒が警察官を刀等で襲ったので、やむを得ず警官が発砲した」という主張に対し、例えば、free Tibethttp://p.tl/luXlなどでは現地からの報告を基に反論。「当局が発砲するまでは平和的行進であった。発砲の後、投石が始まり庁舎の窓が割れた」とのコメントを載せている。
平和的行進に発砲され、死者がでれば、カンパが石ぐらい投げても少しも不思議ではない。自分たちの発砲を正当化するために、その後で投げられた「石」が「刀」や「火炎瓶」最後は「鉄砲」になるのが中国である。
ところで、一つ気になる記述を今日付Tibet Times http://p.tl/M0Qlの中で読んだ。25日付けの新華社に「1月23日の午後2時頃、僧俗のチベット人100人程が違法な暴力行為を行い、3人の僧侶が焼身自殺を行った。しかし遺体はチベット人が運び去り我々の下にはない」と発表したというのだ。これを受けTibet Timesは「あらためて焼身抗議の事実があったかどうか、関係各位に確認したが、その事実は今までに確認されていない」という。
はっきりとは言えないが、考えられることは、「当局は3人の僧侶が発砲により死亡したということを聞きつけ、これを焼身自殺したことにしよう」と考えたのではないか?焼身したと言ってすぐに「もう死亡した」と断定しているのもおかしい。
しかし、この新華社の記事の原文は確認されていないので誤訳という可能性も否定できないが、それにしては記述が詳し過ぎるような気がする。
以下、最初は亡命政府や各国政府の反応を少し詳しく紹介しようと思っていたが、もう、すでに長くなったので簡単に報告するだけにする。
今回の中国当局のチベット人抗議者に対する発砲事件を受け、アメリカとドイツは政府から中国批難の声明を発表している。イギリスは外務大臣が「懸念」を示し、中国に対し「行動を慎み、事件の詳細を正直に発表し、根本原因を認識し解決に努力するよう」要請した。フランスでは議会でチベット支援議員団の団長Jean Francois Humbertが情熱的な演説を行い「諸外国の沈黙はジェノサイドを助長する」と述べた。その他、アムネスティ・インターナショナルも非難の声明を発表している。
もちろん日本は、政府も議会も「チベット」の「チ」の字も出していない。
亡命政府は今年に入っても止まらない焼身抗議と今回の一連の事件を受け、2月8日に本土のチベット人への連帯を示すため世界同日一斉行動を行うことを提案した。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)