チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2012年1月15日

ウーセル・ブログ「キャンパスの漢蔵衝突を生み出した者」

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ンガバの状況が気になるが、電話やネットが切断されているせいか、今日、今の所、新しい報告が何も入っていない。昨日の時点で、「焼身抗議の若者はその場で殴り殺された。保安部隊の発砲により年輩の女性1人を含め3人が死亡し、大勢が負傷した。30~40人が拘束された。強い催涙弾により沢山の人が倒れた」等の情報が入っているが、何れも、現時点では確認されたとは言えない。昨日、「周辺から新たに大勢のチベット人が集結し、保安部隊も増強された」と言われ、緊張が高まっていることは確か。

ゴロでも今日トゥルク・ソナム・ワンギェル師の葬儀が予定されており、周辺のチベット人が集まり、保安部隊も増え、こちらも緊張しているという。

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今回は去年末に成都で漢人学生がチベット人学生を襲った事件に関する、1月5日付けウーセルさんのブログを雲南太郎さんが翻訳して下さったので、これを紹介する。

関連過去ブログ:http://p.tl/bkku

原文:http://p.tl/Er8f
写真説明……昨年12月14日、漢人学生がチベット人学生を取り囲んで暴行した成都鉄路工程学校。(ネットから)

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166926_312238965464893_107878499234275_1061393_475095897_n◎キャンパスの漢蔵衝突を生み出した者

キャンパスでの暴力沙汰は青春期の衝動として大目に見てもらえるものだ。成都鉄路工程学校で少し前、2000~3000人の漢人学生が200~300人のチベット人学生に暴力を振るった事件もそれほど大きな注目を集めなかった。当局の行動が比較的素早ったことと関係があるのだろう。12月14日に起きた暴力事件は特殊警察の出動で収まったが、ネット上では関連ニュースがほぼ削除されている。これは当局が事件の重大性を理解していることの表れだ。

事件に加わった人数の多さが問題の大きさを物語っている。加害者側の文章が発表されると、各地のチベット人や漢人学生の間に激しい議論を呼び起こし、きな臭さが漂った。ずいぶん前に西南民族学院(現西南民族大学)に通っていたころ、キャンパス内では各民族の学生がよく乱闘騒ぎを起こしていたが、これほど大規模ではなく、これほど人数差はなく、これほど残酷に取り囲んで暴行することはなかった。加害者側の文章は恐ろしいものだった。「昨夜の一戦で漢族学生は大きな勝利を収め、学校はチベット族を連れて行った。もちろん病院に連れて行かれたチベット族もいる。昨夜、俺たちのスローガンは響き渡った。『チベット族をやっつけろ、点数を稼ごう』ってね」。なぜこれほど深い民族的憎悪を抱くのかと多くの人たちは驚き、恐れた。「鉄路工程学校にいる漢族とチベット族の積年の恨みは恐ろしく深いんだ……」という言葉もあった。

それほど知られていないこの普通の中等専門学校にチベット人学生がどれほどいるのだろう?ネットの情報によると、中国共産党四川省委員会と省政府は省内のチベット地区で無料教育計画「9+3」を実施しており、この学校は2009年にカンゼ州とアバ(ンガバ)州から105人のチベット人学生を受け入れている。そうであれば、2011年にこの学校のチベット人学生は200~300人になっているはずだ。

「9+3」とは何か?元々、党省委と省政府は2009年から2013年にかけ、省内チベット地区で無料職業教育の5カ年計画「9+3」を実施すると決めていた。チベット地区の学生を対象に、義務教育9年の基礎の上に3年間の無料職業教育を実施するというものだ。このため、チベット地区の中学校卒業者と進学していない高校卒業者は省内漢族地区の職業学校で無料教育を受けている。毎年1万人ずつ、5年で5万人以上になる。

これは2008年にチベット全土で起こった抗議の後、四川省当局が教育分野で始めた新施策だ。多くの優遇政策でチベット人の同化速度を上げている。「9+3」は農牧エリアから来た5万人以上のチベット人の若者を漢族地区の学校に送り込み、多数の漢人学生と一緒に生活させる。この漢化は当局が「チベット地区の長期的な安定を実現する」ことの助けとなる。これこそが中国の少数民族教育政策の本質、つまり長期的な安定につながるのだ。
しかし、当局の意図は一般の漢人にはまったく理解されていない。彼らはチベット人ら少数民族学生への得点加算や生活補助などの現象だけに注目し、憎しみを抱いている。ある漢人学生はネットに不満気に書き込んでいた。「四川の9+3の学校では、どこでも乱闘騒ぎが起きている。(中略)チベット族が来たばかりの頃、担任の先生や校長はチベット族を怒らせるなと話していた」

「チベット族を怒らせるな」という言葉は意味深長だ。長年にわたってチベットを妖魔化してきた当局の宣伝が背景としてある。特に2008年に起きたチベット人の抗議活動を受け、当局は全力を挙げて歴史と現実を黒く塗りつぶし、ねじ曲げ、敵意を増大させ、民族間の亀裂を更に深めた。実際この数年、キャンパスでチベット人と漢人の衝突は頻繁に起きており、深刻な事態になっている。四川省自貢市工業学校では2010年10月、漢人学生がチベット人学生を取り囲んで暴行を加え、1人の死者と多くの負傷者を出した。

当局には「チベット地区の長期的な安定を実現する」という目的があるため、「チベット族をやっつけろ、点数を稼ごう」といった攻撃によって同化教育を台無しにされたくはないだろう。しかし、民族的憎悪を生み出したのは当局自身ではなかったか?

2011年12月27日

(RFA特約評論)

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

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