チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2012年1月9日
高僧が壮絶な焼身抗議 その場で死亡
昨日8日早朝6時頃、アムド、ゴロ・チベット族自治州(青海省果洛州)ダルラック県(མཚོ་སྔོན་ཞིང་ཆེན་མགོ་ལོག་ཁུལ་དར་ ལག་རྫོང་ 达日县) ダルラック郷の警察署の近くで、ドゥンキャップ僧院དུང་སྐྱབས་དགོན་པ་のトゥルク(転生ラマ)・ソナム・ワンギェル(སྤྲུལ་སྐུ་བསོད་ནམས་དབང་རྒྱལ་略称ソバབསོད་སྦ་)師、42歳が焼身抗議を行いその場で死亡した。
彼は僧衣に灯油を浴びただけでなく多量の灯油を飲んでいたと思われ、炎が上がった後、しばらくして爆発音が聞こえたという。警官が駆けつけ、遺体を警察署に持ち帰ったという。
町の人々は警官が持ち去った遺体を取り返そうと数千人が警察署に押し掛け、交渉した。しかし、警察側がこれに応じなかったので集まったチベット人たちは怒りを露にし警察署の窓やドアを破壊した。これをみて警察側は渋々遺体をチベット人たちに引き渡した。彼らは遺体を担ぎ抗議のスローガンを叫びながら街中を行進した。
トゥルク・ソナム・ワンギェル師は8日の朝早く、近くの丘に登り焼香と祈りを捧げた。その後、街中の至る所にチラシを張り出した。そして、警察署の近くの三叉路で「チベットに自由を!」「ダライ・ラマ法王に長寿を!」「ダライ・ラマ法王の帰還を!」等のスローガンを叫びながらルンタとチラシを投げ上げた。僧衣にたっぷり灯油をふりかけ、灯油を飲み点火した。目撃者の話によれば、大きな炎に包まれながらも爆発音が聞こえ倒れるまで「チベットに自由を!法王の長寿を!」と叫び続けていたという。
チラシの中で彼は「自分が焼身するのはチベットの自由と幸福のため、2009年以降焼身抗議を行った人々を偲び、敬意を示すためであり、決して自分のためではない。特にダライ・ラマ法王の長寿を願うための供養であるから、チベットの同胞たちは将来への希望を決して失っては行けない。チベットに喜びの太陽が昇る日が必ずやって来る」と述べている。また、あるチラシには「チベット人は中国風の料理を食べるべきではない。中国製品も買うべきでない。チベット人同士の経済を潤すことを考えるべきだ。地域や宗派の違いを問わず、チベット人は全て同胞として団結すべきだ」とも書かれていたという。
トゥルク・ソナム・ワンギェルはこの地域で一番の尊敬を集める高僧であり、養老院や孤児院も経営していた。
彼は今、ブッダガヤで行われているカーラチャクラ法要に参加しようと、最近地域の警察署に許可書を発行してほしいと要請していた。しかし、警察側は彼が以前すでに何度かインドに行っており、思想的にも問題があるとして許可を与えなかった。トゥルクはこれに不満を示し、「焼身抗議するぞ」と話していたという情報もある。
地区のチベット人たちは今週、彼の葬儀を大々的に行おうとしている。これを警戒し、今、多量の軍隊、武装警官隊がダルラック郷に送り込まれているという。現地への電話は現在不通。
これで内地のチベット人焼身抗議者の数は16人となった。彼はこれまでの僧侶の中でもっとも高位の僧侶である。
参照:8日付けRFA チベット語版http://p.tl/0kRH とhttp://p.tl/f71P
8日付けRFA英語版http://p.tl/9cTB
9日付けTibet Times チベット語版http://p.tl/QqBx
8日付け ウーセル・ブログhttp://p.tl/PhLx
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)