チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2011年12月16日
<Cosmology & Consciousness> 僧侶と科学者との対話
<Cosmology & Consciouness>と題された科学者とチベット僧侶たちの対話の開会式に出席されたダライ・ラマ法王。
今朝9時、法王はダラムサラTCV(チベット子供村)のホールにおいて、今日から3日間行われる会議のオープニング・スピーチをされるためにTCVに来られた。会議にはインドの大学から2人、アメリカの大学から4人、チベット人の賢者4人がパネラーとして出席。科学者は宇宙物理学、宇宙生物学、脳神経学の有名教授ばかりである。
法王はかねてより仏教と科学との相互交流の大事さを説かれ続けている。法王自身が度々科学者との対話を行われるだけではなく、チベット社会、特に僧侶たちが科学者と交流することの緊急性を説いておられた。これを受け、10年前から主立った僧院に科学者を招き、僧侶たちに科学的知識を身につけさせるプログラムが始まっている。また、逆に仏教が科学の進歩に貢献できるとの確信から、科学者へ仏教科学を紹介することにも努力されている。
法王はスピーチの中で「かつてあるキリスト教の司祭が私に、『科学者に近づかない方がいい。彼らは宗教を否定するから』と言った。私はそれは違うと言った。仏教は縁起を説き、因果律を認める。これは科学の考えと一緒だ。また、科学とは事実を分析、研究、実験することをその方法論とする。これもまた仏教と同じだ。ナーガルジュナに始まるナーランダ大学の伝統(注:チベット仏教ではナーガルジュナもナーランダ大学の学僧と言う事になっている。私は個人的に科学的仏教史を学ぶ事も勧める)も分析し証左することにある。論理的に間違ったことは否定される」と科学と仏教が対立するものではないことを強調された。
法王は自分が子供の頃より、科学に関心が強く、本を読むだけでなく、実験を試みたりしたという。チベット社会は科学的分野に遅れを取っていると言われ、若者に科学への関心を高めることが重要だと強調される。「かつて仏教を翻訳するために新しいチベット語の単語が創作されたように、今チベット語を豊かにするために全ての科学用語をチベット語に翻訳する試みがなされるべきだ。また僧侶は科学者たちに対して仏教の科学的知識を紹介できるようにならなければいけない。長年科学者たちと対話することにより、チベット仏教は世界の宝だという確信を持つに至った」とも述べられた。
以下、最初のパネラー、アリゾナ大学天文学科教授Dr.Cristopher Impey氏のスライドをいくつか紹介する。
法王の言葉「科学もブッダの教えも共に、全ての存在が根源的に結びついていることを我々に教える」
教授は全生命体の系統図を示し、動物と植物が遺伝子レベルにおいては大して差がないことを示す。
超低温、超高温、光が全くあたらない環境、強い放射線の下でも生き続ける生命体の例も示す。
教授は特に宇宙の他の星にどれほど生命がいる可能性が高いかを何度も強調する。
全宇宙の星がどれほど多いかを砂浜の砂の数に例える。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)