チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2011年11月19日

チベット人僧侶がスラムの子供たちに学校をプレゼント

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DSC_6548ダラムサラは今が一番よい季節。至る所に桜が咲いて、空は晴れ渡り、暑くも寒くもない。

日本ではブータン国王が国会に招かれ演説されたようだ。ブータンはチベット仏教を国教とする唯一の国だから、素晴らしく、よいことだ。

ダラムサラでは今日、ダライ・ラマ法王がスラムに住むインド人の子供たちのために、チベット人僧侶が運営する団体により建てられた学校の開校式に出席された。
これまで、道ばたで物乞いしたり、ゴミ集めをしていた子供たちが立派な全寮制の学校で学ぶ事ができるようようになったのだ。それも、チベット人僧侶がイニシアティブをとり、何年もかけ、外人や法王の援助を得て実現したのだ。素晴らしいことだ。
法王も今日は特に嬉しそうにしておられた。

今日は法王を中心に、写真多め。


DSC_6669写真はダラムサラにあるスラムの一部。川の中洲にあるこのスラムはチャランカッドと呼ばれ、現在約730人が住む。その内400人は子供だという。その80%近くはラジャスタン州から、残りはマハラシュトラ州からの移民。移民というと聞こえはいいが、インドの中でもラジャスタンとビハールは貧しい州として有名であり、干ばつや水害にみまわれる度に多量の国内難民が発生する。

このスラムの住民は建設現場で働くものもいるが、多くは道ばたで物乞いしたり、ゴミ拾いをして日々を食いつないでいる。子供を学校へやる余裕はなく、子供は幼い時から物乞いとゴミ拾いをさせられる。

DSC_6664出来上がった、150人収容の全寮制学校。

2002年、ジャミヤンという一人のチベット人僧侶がこのスラムを訪れ、その悲惨さに心打たれた。自分たちはインドに難民として受け入れてもらい、法王のお陰もあり、ちゃんと生活と勉強ができる。でも、すぐ近くにはこんなにも悲惨な生活をしている人たちがいる。インド人に恩返しすべきだ。この人たちを何とかしたい。と強く思った。

まず、仲間の僧侶たちと外人のボランティアを募って、スラムの中で小さな学校を初め、定期的に健康診断と治療を行うことを始めた。
この頃、我々のルンタ・プロジェクトもこの話を聞き、さっそく外人教師を募り、学校へ教師を送ったりした。
DSC_6208法王から祝福を受ける僧ジャミヤン。

僧ジャミヤンはその素晴らしい人柄と献身的な努力で、スラムの人々にも受け入れられ、外人のボランティアも増え、次第にヨーロッパ中心に寄付を集めることにも成功した。
その内、ダラムサラだけではなく、周辺の町のスラムへも外人医療チームを定期的に派遣するようになった。

子供たちは教育の機会さえ与えられれば、見違えるように立派に育つことを目の当たりにした。スラムの将来は子供たちの教育にあると確信し、全寮制の学校を建てる計画を立てた。ヨーロッパ、アメリカ、そして3分の1は法王からの寄付も受け今年完成させた。

DSC_6158寮には100~150人を収容し、他に100人程をバスを使い通わせる。200人以上が学ぶ事ができる学校ができたのだ。ほっておけばこの子たちは決して学校へなど行けなかった子供たちなのだ。
もちろん、親の中には働き手となる子供を学校にやりたがらない者もいたという。そのような親を僧ジャミヤンは根気よく説得したという。

DSC_6677パンフレットに載っていた「BEFORE>AFTER」の写真。

僧ジャミヤンの会の名は「トンレン慈善基金 གཏོང་ལེན་དགེ་རྩ་ཚོགས་པ་ Tong Len Charitable Trust」という。
「トンレン」とはチベット仏教で有名な行の名前だ。「トン=与える(送る)」「レン=受ける」。これは調息に従い、観想として吐く息と共に幸せと幸せの因を与え、吸う息と共に苦しみと苦しみの因を吸い込むというもの。

実際には周りに苦しむ有情を観想し、自分の心の中心に黒い利己心の塊を観想する。まず、周りの苦しみの中にある人々(1人の個人でもいいし、動物等を入れた有情でもいい)の心からその苦しみとその因を黒い光(又は煙)として吸い込む。それが自分の心の利己心という黒い塊に衝突した瞬間、白い利他心に変わったと観想する。そしてその白い利他心が光となって吐く息とともに周りの人々の心に届き、その人が幸せとその因を得て白く輝くと観想する。

これを何度も繰り返す。もちろん、機械的にではなく、心を込め苦しみを吸う時には本当に自分の心が痛み、周りの人々が喜ぶ時には自然にこれを心より随喜するように、行う。
もちろん、これは心の訓練、準備であり、本当にそのような機会がある時には実際にすぐに苦しむ人を助けることができるようになるための行である。
法王もこれを毎日行っておられるという。

DSC_6473以下、今日の法王のお話を少しだけ紹介する。(写真はクリックすると大きくなる)

「僧ジャミヤンの何年かに渡る仕事についてはかねてより聞き及んでいた。彼はスラムの子供を私のところに何人か連れて来たこともある。今日は初めて全員に会うことができた。ここにいる子供たちは
恵まれない家庭に生まれた子供たちだ。親たちはゴミを集めて生活している。ある時、母親が食べる物もなく、子供を養えず、子を川に流したということを聞いたことがある。私はその話を聞いて非常に心が痛んだ。

DSC_6342私は常々、我々は人としてみんな平等だと説いている。世界の70億人の人はみんな初め母親のお腹に生まれ、最後に死ぬのは一緒だ。宗教や国、宗教を受け入れるか受け入れないか、教育があるかないか、民族が違うかどうか、金持ちか貧乏人か等々、これらはすべて2番目の話だ。もっとも大事なことはみんな人として一緒だということだ。自分も幸せになりたく、苦しみたくないと思うが、これは70億の人みんなに共通の思いだ。

だから、人はみんな困難な状況から抜け出す権利がある。社会的動物である我々にとっては、他の人々が困難な状況にある時、これを助けるというのは良心的責任でもある。貧富の差をほおっておくことは良心に反するだけでなく、社会的問題の元凶ともなる。だから、我々は貧富の差を縮める努力をすべきなのだ。

DSC_6372これには富める者と貧しい者、両方からの努力が要る。富めるものはその知識と富を分け与えるべきだ。特に教育を与えるべきだ。貧しい者たちはその貧しさから抜け出すために努力しなければならない。豊かな者たちもそれなりに努力してそうなったのだ」

「僧ジャミヤンよ、君は今よき基礎を固めた。この先、もっと多くのこのよう状況の子供たちを救うべきだ」

「この先、もしも資金が足りないようなことがあれば、いつでも私のところに来るがよい。ダライ・ラマ・トラストに金がある限り、それは君のお金と思ってほしい」と。

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DSC_6267インド側のメインゲストはこの地域出身の国会議員であるシャンタ・クマール氏とその奥さん。彼はインド政府もこの「トンレン」に対し100万ルピー(約180万円)を寄付すると約束した。

DSC_5869学校の中庭にはガンディーの銅像が置かれた。これを見上げる法王。

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DSC_6108式典の初めに子供たちの歓迎の歌が披露された。

DSC_6131子供がVOTのインタビューに答えてる。「最初クショラ(僧ジャミヤン)にはマクロードのゴミ捨て場で会った。新しいパンを買ってくれた。
前はいつもゴミ拾いをやってた。お金になるゴミが集まらない時には、泥棒もやったことがある。でも、もうそんなことはやらなくていい。今は勉強してる。すごい違いだ。夢にもこんなきれいな寝床で寝ることができるなんて思ったことがなかったよ」

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DSC_6396「昔は乞食をやったり、ゴミ集めをしてた。今は全く違う生活だと思う。昔はゴミの中から食べられるものを探して食べてた。お金になるゴミを売ったり、靴磨きをして、少し家にお金を持って帰ってた。家に食べるものがないこともよくあった。今はクショラのお陰で、こんなすごいとこに住んで、おいしい食事も食べれる。勉強頑張るつもりです」

DSC_6661最後にガンディーの銅像。
下にはなかなか素晴らしい彼の言葉が記されている。

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

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