チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2011年11月16日
TIME Magazine:タウ現地レポート「自由のための焼身願望」
14日付けTIME Magazine http://p.tl/UC-u より抜粋
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<中国支配60年の後、チベット僧侶は焼身抗議に訴える。彼らの抗議の先にあるものは?>
By: Hannah Beech/Tawu; With reporting by Chengcheng Jiang/Tawu
ツェワン・ノルブが亡くなった現場には、その場を示す花束も供養物も何もなかった。8月15日、中国の僻地、タウに住む29歳のチベット僧は灯油を飲み、身体に可燃油をかぶり、マッチを擦った。町の中心街で燃え盛りながら、ノルブはチベットの自由を叫び、亡命中である精神的リーダー、ダライ・ラマへの愛を絶叫した。2ヶ月半後、夜の闇にまぎれ、私はノルブが息絶えた橋のたもとに向かった。町は封鎖されているに等しかった。街灯には真新しい監視カメラが取り付けられ、すべての動きを記録していた。少し先にはマシンガンを持った数名の警官が立っている。数分ごとに、警察の車から光る赤い光線が、この殉教者の現場を照らし出していた。
チベットは燃えている。ノルブの焼死後、中国のチベット地区への弾圧に抗議し8人(現時点ではチベット内で9人)の僧侶或は元僧侶が焼身を行っている。
(以下レポーターは「今、チベット高原は虚無的絶望感に覆われている」として、ここに至るチベット問題の背景を詳しく記述している。実際レポートは相当長い。背景説明の部分は省略し、現地レポートの部分のみ、以下抜粋する)
「もうこのような状況に耐えきれない」とカンゼの若い僧侶は言う。「さらに激しい抵抗が起こるだろう。チベット人は中国政府に対する信頼を完全に失っているからだ」
1人のカンゼの住民は「何十年間に渡る所謂愛国教育にも関わらず、チベット人たちはなおもダライ・ラマ法王を敬愛し、自分たちを完全にチベット人だと自覚している。1%だって中国人だとは感じてない」と話す。
「もしも、何かしなければ、我々のチベット文化は消え去るであろう」と漢族観光客が多いカンゼ僧院の高僧は言う。「だから今、状況は切迫しているのだ。だから、自分たちの民族と国を守ろうとしているのだ」
この辺りを移動すると疲れ易いのは、単に高地で空気が薄いからだけではない。実に多くの人たちが監視していない振りをしていたり、逆に辺りに気を付けてばかりいるからなのだ。
尊敬を集めていることは確かだが、外国でチベット問題をかくも有名にしている法王の非暴力と慈悲のメッセージは、ここではすり切れかけているように思えた。私が尋ねたカンゼの僧侶たちは全員、なぜ仏教の戒律に反してまで仲間の僧侶たちが焼身自殺を行ったかが理解できると答えた。「彼らは自分のためではなくチベット人のために行ったのだ」と20歳の僧侶は話す。「私は彼らの勇気を讃える」
(中国の役人にもインタビューし)彼らが「ダライ・ラマさえ居なくなれば、全ての問題は消え去る。若いチベット人たちは正しく教育されており、かれらが問題を起こす事はないからだ」と話し、まったく若者が中心となり抗議を行っていることを無視し、現状を故意に誤解している。
ニンツォ僧院のそばを車で通過したときは暗かった。監視カメラが至る場所にあり、警察車両も多く、私服警官も大勢いた。壁越しに巨大な僧院が不気味に建っていた。何も特に目を引くものはない。僧侶の姿も見えない。現地の人や亡命側の情報によれば、多くの僧侶は再教育キャンプに送られたという。7人の僧、元僧が焼身したンガバのキルティ僧院と同じ状況だ。タウの政府職員が言うには、今僧院に残っている僧侶の多くは他の僧侶を見張るためのスパイだという。全ては灰色で影を帯びていた。だが、最後に僧院の中の壁の上に何か明るいものを見た。しかし、それは期待したような僧侶の赤い僧衣ではなかった。それは赤くつやつやした消火器であった。
残酷な弾圧から経済的誘惑まで、中国のチベット人を飼いならそうとする努力はすべて失敗した。
カンゼの若き僧侶の絶望的手段。チベット全土において、中国支配への抗議は益々ニヒリスティックと化している。
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最後に、昨日RFAに掲載された僧ツェワン・ノルブの焼身抗議の映像。衝撃的なので<閲覧注意>
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)