チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2011年11月13日
焼身中止を訴えるギャワ・カルマパの声明全文
先に10日のブログで「カルマパが焼身抗議の中止を要請」というニュースはロイターの記事を使ってお知らせした。その時にはカルマパの声明文は英語のまま掲載するにとどめた。
今回、全文を日本語にしてみた。
チベット語の全文は見つからないが、一部がTibet Times http://p.tl/CoXmの中にあったので参照した。少し、英文とは違う部分があったが、その場合はチベット語に従った。
中国語訳がウーセルさんのブログに掲載されている。>http://p.tl/xRgU
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声明:17世カルマパ、ウゲン・ティンレー・ドルジェ
2011年11月9日
今年3月以来、11人の勇気あるチベット人がチベットの自由とダライ・ラマ法王の祖国帰還を求め焼身した。純粋な動機によるこれらの絶望的行動は、彼らがその下で暮らすことをよぎなくされている不正義と弾圧に対する叫びである。状況は耐え難いほどに深刻だ。しかし、この困難な状況の下で我々はより大きな勇気と決心が必要なのだ。
チベットから相継ぎ伝えられる焼身抗議の報告一つ一つに、私の心は苦しみで一杯になる。チベットのために自らを灯明と化した人々のほとんどは非常に若い人ばかりだ。彼らは長い先の人生を全て投げ打ち、チベットのために貢献しようと命を捧げたのだ。仏教の教えでは命は貴重なものだ。価値ある何かを達成するために我々は命を守らねばならない。我々チベット人の数は少ない。だからチベットの大義のためにもチベット人一人一人の命は価値が大きい。状況は困難ではあるが、我々は長生きし、長期的目的を失う事なく強く生きねばならない。
ダライ・ラマ法王もおっしゃっているように中国の指導部はこれらの悲劇的事件の真の原因を直視すべきである。このような劇的な行為はチベット人たちがその中で暮らす絶望的環境に起因するものである。非人間的対応は事態を悪化させるばかりであろう。恐怖がある限り、信頼はあり得ない。
ダライ・ラマ法王は力の行使は逆効果であると強調される。弾圧政策により団結と安定が生まれることは決してあり得ない。中国の指導者たちはチベット人やその他の少数民族に対する政策を真剣に見直すべきだ、という法王の意見に私も賛成する。正しい考えを持ち、自由を愛する世界中の人々に対し、我々と一緒にチベットの僧院——特に四川省のチベット地区——への弾圧を止めさせるための運動を行ってほしい。同時に中国の指導者たちにはチベット人たちの正しい要求を考慮し、彼らを暴力的に黙らせるのではなく、彼らと意味のある対話を行うことを要請する。
チベット問題は真理と正義の問題である。故に人々は命を捧げることも怖れない。しかし、私はチベットの人々に対し命を守り、チベットの大義のために他の建設的方法を見つけ出すようにとお願いする。僧侶、尼僧を初め全てのチベット人が、長寿を全うし、恐怖から解放され、平和と幸せの内に暮らせる事を心より祈り続ける。
ウゲン・ティンレー・ドルジェ
17世ギャワ・カルマパ
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)