チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2011年11月5日
ラサ当局 チベット美術展を閉鎖
4日付けRFA http://p.tl/3yQcより。
中国当局はチベット文化の展示を規制
最近チベット人たちは、漢民族が益々優勢となる中で、自らの文化と民族的アイデンティティーを確認する努力を行おうとしている。そんな中、ラサの僧院跡で行われていたチベット美術展が当局の命令で中止された。
展示会はオープン後、2時間もしないうちに閉鎖された。展示会は10月16日から18日間行われる予定であった。現代絵画や「ジャンシン」と呼ばれる伝統的にチベット語学習用に用いられていた木製の学習板等が展示されていた。
「(10月16日)大勢の人たちが展示に見入っていた」と匿名希望のラサの住民はRFAに話す。「その中には警察やその他の保安要員もいた」。
「本当に混雑していたので私はもっと人が減った頃にまた来ようと思い、その日は全部見ずに帰った。次の日に再び行くともう閉まっていた。ドアには何の説明も書かれていなかった」「後から『当局の命令で閉められた』ということを聞いた」とその人は伝える。
展示会をオーガナイズしたケノル氏は「展示会のテーマがチベットの伝統文化であったからであろう」と言う。さらに「今、ラサのチベット人地区全体が厳しい統制下にある」と付け加えた。
現代と伝統がテーマ
展示は3つの部屋に渡り、昔と今のチベット語書体が展示され、また、伝統的背景を使った現代絵画も展示されていた。
ある絵には背景に六道輪廻図が描かれその真ん中にはバターランプとそこに飛び込もうとするガが描かれている。
僧侶が空を飛ぶ絵もあった。
蝶を背景に人気の高い21ターラ菩薩が描かれている絵もあった。
主室にはかつてチベット語学習のために広く使われていた「ジャンシン(教木)」が展示されていた。
「これには今のクラスのように、黒板代わりの板と書くための竹ペン、板の上に白い補助線を引くための粉が入った小さな袋が付いていた」「これは本当に興味深いチベット展だと思った」とその人。
「もっとゆっくり見たかったが、とにかく人が多くて全てをよく見る事ができなかった」
大事な役割
政府新華社TVのインタビューに答え芸術家のケノル氏は、かつてのチベットにおいてはこの木製の学習板はチベット語を習うために「大事な役割」を担っていた、と答えている。
「今では書くためにコンピューターや紙がある。かつて長い間、チベット語を書く練習には『ジャンシン』に頼るしかなかったのだ」とケノル氏。彼は父親からこのジャンシンを使ってチベット語を習い、今、ラサ近郊のトゥルン・デチェン中学校で芸術の先生をしている。
「私はこの伝統的なチベット語習字方をリバイバルさせたいのだ」ともいう。
この新華社のインタビューは10月20日に放映されたが、展示会がすでに閉鎖されていることについては何も言及されなかった。
チベットの精神的リーダーであるダライ・ラマ法王は最近、僧院への弾圧とチベット語使用制限政策に言及しながら、中国政府に対しチベットに対する「抑圧的」政策を変更すべきだと要求した。
今年すでにチベット内で11人のチベット人が中国支配に抗議する焼身自殺を行っている。
チベット自治区と中国のチベット人住居地区における緊張は、2008年3月以来全く緩和されていない。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)