チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2011年10月15日
今日、またしてもンガバで一人の元僧侶が抗議の焼身自殺
写真は2009年のもの。この時かれは僧侶であった。(Tibet Timesより)
目撃者からの報告をダラムサラ・キルティ僧院僧侶カヤック・ツェリン等が伝えるところに依れば、今日、現地時間午前11時50分頃、ンガバ市内中心街で19歳の元僧侶ノルブ・ダンドゥル(ནོར་བུ་དགྲ་འདུལ་)がチベットの自由を訴えるために自らを灯明と化した。今年に入りこれで8人目である。
彼はンガバ県チュゼ郷ソルマ、ペマ家の息子(རྔ་པ་རྫོང་ཆོས་རྗེ་ཞང་སོ་རུ་མའི་པདྨ་ཚང་གི་བུ་)。「チベットに自由と独立を!ダライ・ラマ法王のチベット帰還を!」とスローガンを叫んだ後、自らの身体にガソリンを掛け、火を放った。
直ちに駆けつけた警官たちが水や消化剤を掛け、彼を殴り倒した後、すぐに小さな車に乗せどこかに連れ去った。
目撃者によれば、彼は酷い火傷を負っていたが死んではいなかったという。
彼は幼少時にンガバ・キルティ僧院で僧侶となり、2010年6月まで僧侶であったが、その後還俗し両親とともに暮らしていたという。
一人の目撃者の報告を以下に記す。
「私は11時50分頃市内の大通りのそばにいた。この時街には沢山の人がいた。最初、後ろの方から『チベットには自由と独立が必要だ!ダライ・ラマ法王をチベットにお招きすべきだ!』という大きな叫び声が聞こえた。後ろを振り向くと、人が一人火に包まれていた。彼はこちらに向かって走って来ていた。これを見て私は非常な恐怖を覚えた。あっちこっちに目をやっていた時間がどのくらいであったのか、彼がいつから火を付けたのかも分らなかった。彼の頭の毛や背中の服等が燃え上がり、地面に落ちるのが見えた。髪が長いのと、青っぽいズボンを吐いているのははっきり分った。
その後、警官たち駆け寄り、最初、左右から水を掛けたが火は消えず、彼は倒れることもなく、声を上げ続け、前の方に進んだ。前から殴られても倒れなかった。消化器を持った警官が2、3人前から消化液を掛けたが倒れず、後ろから消化器でなぐってやっと倒した。火を消し終るとすぐに近くに置いてあった、箱形の小さな車に乗せ運び去った。おそらく病院に連れて行ったと思われが、病院は少し離れたところにあるので、はっきりと病院に連れて行ったかどうかは分らない。
髪が長い俗人であったことだけは確かだが、顔見知りだったかどうかは分らない。私も気が動転していたし、顔も焼けただれていたので思い出してもよく分からない。
私は彼のすぐ近くにいたが顔はよく覚えていない。警官たちが彼を倒したと同時に大勢の人たちが集まった。しかし、3、4分の内に運び去られた。警官と軍隊が大勢集まり、チベット人も多かった。警官や軍隊は鉄の棍棒や銃を手に持ち集まった人たちを追い払った。
すぐに街には大勢の警官と軍人が集結した。シェドゥンゾンカル(現場付近の地名)は閉鎖され出入りができなくなった」
参照:15日付けTibet Times http://p.tl/Lcwq
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)