チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2011年6月9日

ウーセル・ブログ「カルマの母の涙」

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001_16月5日付けウーセルさんのブログ
原文:http://p.tl/ItoJ
翻訳:雲南太郎(@yuntaitai)さん

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写真キャプション:
1、2枚目……2009年8月の暴行で重傷を負ったカルマ・サンドゥップの母。数カ月入院し、今でも体は非常に弱ったままだ。
3枚目……2007年夏のカルマ。2年後に冤罪で逮捕された。

<嘎玛母亲的泪(カルマの母の涙)>

文/ウーセル

 カルマ・サンドゥップが冤罪で逮捕されてから既に1年5カ月になる。人々はまだ彼を覚えているだろうか?「天珠王」のカルマ。チベットで初めて民間の環境保護団体をつくったカルマ。民族の記憶を刻む芸術品の収集に力を注いでいたカルマ。衝撃的な昨年6月のあの日、誰もが冤罪だと知っているにもかかわらず、この国の司法はまったく公正な判決を下さなかった。


002_5 難局を乗り切ることはできなかった。人々はこの冤罪事件が事実にされてしまったことに目を見張った。罪業をでっち上げた悪人たちがカルマに懲役15年の判決を出したのを見た。彼が濡れ衣を着せられ、遥か彼方の砂塵の舞う地、新疆ウイグル自治区アクス地区シャヤール県に拘禁されるのを見た。あそこは県全体が巨大な監獄だ。

 災難に遭ったのはカルマだけではない。カルマの兄弟や従兄弟が5人も捕まり、刑罰や労働矯正の処分を受けている。一昨年の夏には、悪徳官吏が軍と警察を引き連れてカルマの故郷に行き、兄のリンチェン・サンドゥップと弟のジグメ・ナムギャルを逮捕した。家財をひっくり返して捜索、没収し、70歳を超す母親を棒などで殴った。重い傷を負った母の写真を見たことがある。青く腫れ上がり、化膿まで起こした大きな傷跡が「人民の軍隊」によるものだとは信じたくなかった。

IMG_1189 最近、カルマの母の消息を聞き、とても悲しくなった。体の弱ったこのお年寄りは長男と三男の投獄だけを知っていて、カルマが重い刑を受けたことをまだ知らないという。ショックのあまり彼女が生きていられなくなるのを恐れ、誰も本当の事を話そうとしない。妻のドルカ・ツォは「カルマは外国に避難している」と母を慰め、お年寄りはいつも「絶対にカルマを帰国させてはいけない」と繰り返している。とてもしっかりしたお年寄りだったが、明らかに耐え切れなくなり、近頃は電話で何度かむせび泣いたという。

 幹部と警察による工作グループは一昨年からずっと村に駐在し、アメとムチによってカルマの家族を村民から孤立させようとしていると聞く。例えば、病気になった村民がチャムドやラサへ治療に行くには、工作グループの証明書が必要だ。工作グループは一枚の無関係な文書に署名、捺印するよう村民に求め、従わなければ証明書を出さない。これはどんな文書なのだろうか。カルマの家族を中傷するでたらめな言葉が並び、上級機関への陳情や家族への支援を禁じる文書だ。ローンを組んだり、紛失した身分証を再発行したりする時などにも、このようなひどい要求があるという。

 私が人を介して話を聞いた時、ドルカ・ツォはすすり泣きながら言ったという。「家にはもう女しか残っていないのに、どうして放っておいてくれないんですか?」

 そう、あの慈善事業を好んだ家族、たくさんの人がいた家族、名声が遠くまで伝わった家族が、今では女性の留守番だけになっている。かつて私も会ったことのあるリンチェン・サンドゥップの娘は、出家して尼僧になることを望んでいた。貴重なお経を保存する父を何年も手伝っていたが、データを保存した光ディスクは警察に没収されてしまった。その上、懲役5年の判決を受けてラサで服役する父を心配するあまり、若くして心臓病になってしまった。

 カルマの妻ドルカ・ツォは事情を知らない2人の娘がすこやかに育つよう努力するだけでなく、カルマの事業を継続させるため、経験したことのない重い責任を負う必要があった。彼女の重大事は監獄での面会だ。昨年から現在まで、彼女はウイグル自治区を8回訪れている。判決後の1年間、彼女は変わり果てた夫に3回しか会っていない。

 ドルカ・ツォはブログで、「面会時に使えるのは漢語だけ」と書いていた。決してこのチベット人夫婦がチベット語を話せないという意味ではなく、チベット語を話すことを許されなかったという意味だ。毎回30分の面会で、カルマはあまり流暢ではない漢語でしか妻と話ができなかった。だからドルカ・ツォの最大の願いは、チベットの監獄で服役する許可をカルマに得てもらうことだ。そうなれば少なくともチベット語を話せる。しかし、彼女は3カ月に1回しかカルマに面会できない。最近の面会は理由もなく取り消され、早いうちに買っておいた航空券はキャンセルするしかなかった。

2011年5月31日

(RFAチベット語プログラムより)

003_2以下、3枚の写真……2009年8月31日撮影。数日前、チャムド地区の官吏がカルマの家族の自宅を荒らした様子。

004_7_2009_08_31_参照:過去当ブログ
http://t.co/f4YWr3r
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http://p.tl/ozik
http://p.tl/x1P9
http://p.tl/Ba6j
http://p.tl/j1wq

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筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

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