チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2011年6月1日
ンガバ:女性2人が解放されるも意識混濁状態/デブン僧院のサカダワ・ニュンネに突然禁止令
焼身自殺した僧プンツォの葬儀を見守るンガバの人々(写真ウーセル・ブログより)
今日は2つ。
まず、ンガバの話。
現地からの報告によれば、4月22日にンガバ・キルティ僧院僧侶約300人が連れ去られるのを阻止しようとし、拘束されていたチベット人の内2人の女性が5月17日に解放された。しかし、2人とも約1ヶ月に及ぶ拘束中に激しい拷問を受け、意識もはっきりしないほど衰弱しているという。また、2人とも頭を剃られていたと。2人はンガバ、タワガプメ(རྔ་པ་རྫོང་མཐའ་བ་འགབ་མ་)のチュゴ(ཆོས་ཁོ་45)とタワゴンマ(མཐའ་བ་གོང་མ་)のセルキ(གསེར་སྐྱིད་35)。
この衝突により2人の年長者が武装警官隊により殴り殺されている。キルティ僧院における愛国再教育は今も続いており、ンガバ全体が厳戒態勢の下にある。
参照:Tibet Times (チベット語)http://p.tl/yHSn
phayul.com (英語)http://p.tl/h5fl
デブン僧院のサカダワ・ニュンネが突然禁止される
TCHRD(チベット人権民主センター)が入手した情報によれば、中国当局はラサ近郊デブン僧院(འབྲས་སྤུངས་དགོན་)で行われようとしていたサカダワ(ས་ག་ཟླ་བ་)中の重要行事であるニュンネ(སྨུང་གནས་一種の断食行)を禁止した。
サカダワとはチベット暦4月の別名(釈迦月)であり、この月の満月の日はシャカムニ・ブッダが降誕・成道・涅槃した日とされ、特に大事な縁日とされる。また、この月の間になされた功徳は何百・何千・何万・何十万倍(様々な説あり)にも増幅されると信じられており、チベット人たちは競って布施や読経、修行等に励むというよき慣習がある。
ラサのデブン僧院では昔からこのサカダワの1日から15日までの間僧侶・俗人が集まりニュンネの行を行う伝統があった。しかし、2008年以降は当局によりこれが禁止されていた。今年は僧院側の度重なる強い要請により当局はこれに許可を与えた。
今年はこの行が行われるという噂を聞き、遠くからも大勢の老人を中心としたチベット人たちがデブン僧院に集まった。前日の5月30日、会場となるハルドゥン・カムツェン(ཧར་སྡོང་ཁང་ཚན་地方寮)では僧侶たちが準備に忙しく立ち回ったり、お経を上げていた。そこに突然警官と当局の作業班が乗り込みニュンネを中止するよう命令した。俗人たちも追い出された。
これに対する抗議を警戒し、武装警官隊が僧院を取り囲み、威嚇を続けているという。
自身も元デブン僧侶・元政治犯であるTCHRD代表のジャンペル・モンラムは、「2008年以降デブン僧院では『愛国再教育』が続けられているが、今回は自治区の副代表級の役人が大勢押し掛け、さらに厳しい『教育』が始められた」という。TCHRDは「これは明らかに宗教の自由を侵す行為であり。即刻撤回されるべきものだ」と主張している。
参照:TCHRDリリース(英語)http://p.tl/aqHb
RFA (チベット語)http://p.tl/emOR
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)