チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2011年5月16日
一家族の苦難
参照:5月14日付けTibet Timesチベット語版:http://p.tl/AfzH
及び5月16日付けphayul.com: http://p.tl/HZM8
逮捕から2ヶ月ほど経ち、始めて1人のチベット人の逮捕とその家族が拷問に苦しめられていた事実が亡命側に伝えられた。
亡命政府の首相・議員選挙が行われた1日前の3月19日の夜中、60歳になるゲリックというチベット人が逮捕された。彼はンガバ県メウルメ郷第3地区出身。嫌疑は彼が2008年以降のチベット内部の情報、及び特に今回の僧プンツォの焼身自殺に関する情報を外部に伝えたからと言われている。彼が拘束されたのはこれで3度目である。当局は今回の件に関し、彼と他の9人の僧侶をもっとも重い犯罪人として激しい拷問を加えていると、情報筋は伝えて来ている。
彼が逮捕された後、当局は彼の妻や子供、親戚たちも拘束し拷問を加えている。3月20日には彼の妻ドゥンゴが、22日には娘のメト(写真下)が拘束された。2人は尋問の間にひどい拷問を受け、4月2日に解放されたが、妻のドゥンゴはそのとき重体であった。親戚の者たちが急いで彼女を病院に運び込んだが、当局は彼女が治療を受ける事も許可しなかった。しかたなく家につれて帰ったが彼女は今も寝たきりの状態だという。
ゲリックと親交のあった者たちは自分たちも拘束されるのではないかと恐れ、多くの者が逃亡した。彼らの消息は途絶えたままだという。妻ドゥンゴのおいであるキルティ僧院の僧侶ロブサン・ツェリン(24)も3月16日以降行方不明になっている。
キルティ僧院では、現在僧院の外にいる僧侶たちの名簿を作り、彼らは今後僧院に戻る事はできないと当局は命令している。空になった僧房のドアにはカギが掛けられ、「入室禁止」の張り紙が張られているという。
僧院ではダライ・ラマ法王を非難し中国共産党を讃えるという「愛国再教育キャンペーン」が続いており、毎日大勢の政府職員が様々な地区から呼ばれ参加しているという。
僧院では4月6日以降、現在までに20人以上の僧侶が逮捕されているという。
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5月6日にはキルティ僧院僧侶ロブサン・ケドゥップ(39)が逮捕された。逮捕理由や現在の所在は不明という。
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世界中で亡命チベット人やサポーターたちがンガバ・キルティ僧院の困窮を和らげようとロビー活動を続けているが、現地では当局の厳しい監視や教育、逮捕がつづいている。僧院内では見慣れない黄色い制服を来た武装警官が警戒にあたり、僧院の外では軍隊がトラックの中に隠れている。これらはもしも映像が取られたときにも明らかな証拠とならないようにとの当局の策略である。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)