チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2011年5月10日
デリーで「死のハンスト」を続ける3人に会った
左からクンチョック・ヤンペル(30)、ドゥンドゥップ・ラダル(31)、テンジン・ノルサン(29)
今日でハンスト16日目、3人はテントの中のベッドにぐったり横になっていた。外は40度を越える暑さだ。親しいテンジンに声を掛ける、「頑張ってるね、ありがとう。どう、具合は?」
テンジン「まあ、日ごとに弱ってる気はするが、まだまだだよ。これからが本番さ」と起き上がって、微笑む。
副会長のドゥンドゥップさんに少し詳しい話を聞く:
「今回のハンストの目的は?」
D:「中国政府に対し、今回特に要求していることは、一つ:ンガバ・キルティ僧院から軍隊や武装警官を引き上げ、愛国再教育を中止し、政治犯を解放すること。2つ:チベット内部の人権状況を調査するためのTYC調査団を受け入れること。この2つの要求が受け入れられるまで我々はこのハンガーストライキを続ける。
また、各国や国際機関に対しては、中国に対しこれら我々の要求が受け入れられるように圧力を掛けてほしい。チベットの人権状態を正確に把握するために調査団を送ってほしい。チベットが嘗て独立国であったことを承認し、将来また独立国になる事を助けてほしい。これらが我々のアピールだ」
「もう16日目だが、苦しくはないか?」
D:「何でもない。それは、どうしてかというと、チベット内部の人は、例えば、中国に侵略されたすぐ後多くの人々が餓死した。その後も文革の間、食べ物も無く、かつ不当で惨いやり方で多くの人々が死んで行った。そのことに比べれば、我々の苦労は何でもない。自分たちはこうしてベッドに横になって休む事ができる。中の人々は今も命がけで抗議の声を上げている。その人たちの事を考えれば、何でもない。自分たちはこうして自由の国に住んでいる。52年前に中の人たちと別れ離れになったが、同胞のことを決して忘れたわけじゃない。中にいる人たちへの連帯を示すためにやっているのだ。」
「中国は経済的に発展したかも知れない。チベットも少しは豊になったかも知れない、でも我々チベット人の血は中国人とは違うのだ、昔のように独立したい、自由になりたいという思いは決してなくならない。死を掛けてもそのために行動する用意があることを中国政府に対し示す
ためにやっているのだ。」
「日本に対して特に求める事はあるか?」
D:「日本とチベットは中国が来る前から関係があり、親密感を持っている。アジアの中で日本は経済的にも政治的にも大きな存在だ。中国に対して圧力を掛ける事ができる国だと期待している。」
「日本は最近地震・津波で大きな被害を被った。我々は特に日本に親密感を持っているが故にこの前4月28日、TYC主催で49日の特別法要を行った。義援金も集まった。日本が早く復興する事を願っている」
「いつまでやる?」
D:「我々3人は自分から進んでこのハンストを決心したのだ。最初に誓いを立てている。要求が受け入れられるまでは決して止めない。チベットのために死ぬ覚悟はできている」
ハンスト開始時点に比べ、今ドゥンドゥップ氏は14キロ、クンチョック氏は11キロ、テンジン氏は8キロ痩せたという。
ンガバ・キルティ僧院の状況は良くなっているようにはない。愛国再教育も最低3ヶ月、長ければ今年一杯続けると中国当局は言っている。2番目の要求であるTYC調査団のチベット入りなど、到底受け入れられそうにはない。これからどうなるのか一ヶ月以上は確実に続けられるであろう。本当に死人が出ない事を祈るばかりだ。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)